高等教育における3つのポリシー
上で述べたように、初等および中等教育では教科の目的から領域、単元構成までほぼすべて『要領』で網羅されているから、それを学力の3要素に沿う形でどうパフォーマンス課題として設定して、教育実践にどう落とし込むかが難しい。すなわち、「目的→実践」の作業とそれを通じたルーブリック作成が最も困難な課題だと言える。
では、高等教育においてはどこの作業が困難を伴うのか。話は逸れるが、ここでは大学のカリキュラム体系、およびこれに関連する3つのポリシーについて図1を参照しながら確認しておこう。
大学で開講される授業の形態には、講義(座学中心の授業)・演習(少人数授業でALの役割を本来的に担う)・実習(実作業を伴う授業)がある。一方、本学部における授業内容を大別すると、数学的手法を駆使したアプローチ、統計的手法を駆使したアプローチ、歴史的史料や古典を紐解くアプローチ、そして現地へ実際に赴くアプローチなどがある。
各教員は、自分の専門領域とするアプローチを上記3つの授業形態に沿った形で授業を設計する。これまでは授業のほぼすべて各教員の裁量に任されていたが、近年では授業を通じて学生たちにどんなスキルを身につけさせようとするのか、すなわち授業の(教育上の)目的を明示しなければならなくなった。
つまり、初等および中等教育とは逆に「実践→目的」と後付け的に授業の目的を設定しなければならず、この作業が一番困難を伴う。とはいえ、特定手法によるアプローチ自体は各授業で明確になっているから、それを学生が身につけるべきスキルの形に仕立て直した上で、どう教えるのかという観点でまとめて行けばいい。
これによって、学部においてどういったカリキュラムを組んで教育するのかという大方針を示すカリキュラム・ポリシー(以下、CPと略記)が完成する。CPは学問分野、すなわち学部が違えば内容も異なるのは当然だが、同じ学部でも教員編成によっても異なりえる。同じ専門領域とはいえ、教員の得意分野は厳密に異なるからである。その意味で、CPは各大学独自に示されるものである。
各学部の教育方針であるCPが明らかになれば、次に教育課程を経てどんなスキルが身についたのか、その基準を示さなければならない。それを明らかにすることで、卒業の要件とするディプロマ・ポリシー(以下、DPと略記)が明確になる。
それと同時に、CPに準じた教育課程を首尾よく受けるために受験生がどんな資質を備えておくべきか、もって入学のための条件とするアドミッション・ポリシー(以下、APと略記)も明確になる※注1,2)。