秋の長雨、なんだろうか。グラウンドに出られない放課後。体育館裏手にあるトレーニングルームでは、部員たちがウェイトトレーニングに励む。とはいえ、マッチョな体型をしている部員はほとんどいない。

現に、ベンチプレスで前田くんがチャレンジしている負荷は三〇キロのバーベルで、彼はそれを四苦八苦しながらこなしている。見守る他のメンバーだって、大して変わりはないのだが、前田くんにかける声は辛辣だったりするけれど。

「だからさ、もう夏も過ぎたっていうのに、マッチョ目指しても意味ないじゃん」

外から声が聞こえる。

「間違えるなよ。オレが目指してるのは細マッチョなんだってば。ムキムキになったってキモいだろうが。それに、今から始めないと来年に間に合わないだろ」

「来年に間に合ったとして、で、どうなるワケ?」

「どうなるかは、ワカンナイけどさ」

「でもさ、でもさ、オッカナイ山田先生より、キレイな和泉先生の指導の方がよかったりして。ぐふぅ」

わりと短気な石宮くんは、軽くムッとしたらしい。トレーニングルームのドアを開けた。

「何をウダウダ言ってる? コッチは真剣にトレーニングしてるんだけど!」

ドアの外には、その言葉に反応した三人の一年生がふと身を寄せる。

「いやあの、筋トレ、教えてもらえたらな、って」

「お前、A組の椎名しいなじゃん。何しに来たんだよ」

「だからさ、筋トレやらしてもらおうって、山田先生の所に行ったワケ。したらさ、今ラグビー部がやってるから教えてもらえよ、って。何だか鼻で笑われた感もあるんだけど」

「細マッチョ目指すんだって?」

椎名くんは、石宮くんにも鼻で笑われてる。

「オレは、ただの付き添いじゃあないぜ」

背の高い、でも心細い街灯を支えている電柱のような体型の子が、受け付けを変わった。同じA組の大前おおまえくんだ。

「ここと、ここに、ちゃんとした筋肉をつけたくてさ」

胸と上腕をパチンと平手で叩く。

「ワッサ。てめェもか」

石宮くんの後ろから、保谷くんも対応している。

「いや、それこそオレは付き添いみたいなもんだから」

「いいよ。来い来い。一緒にやろうぜ。体操服、着てこい」

保谷くんは鷹揚に頷くけれど、石宮くんはちょっと不満そうだ。面白半分のヤツにまぎれ込んでほしくない、と、その横顔が言っている。佑子は一番奥のマットの所にいて、何人かの体幹トレーニングの計時をしていたから、多分三人からは見えてない。

彼らのやり取りを聞きながら分かった。石宮くんはその場の感覚で反応していただけだが、保谷くんは仲間を増やす戦略を胸に秘めているのだろう。今は単純な好奇心で寄って来た三人だが。

「で、筋肉つけてどうすんだ。多少胸がぱっつんってなったって、中身がなけりゃモテないぜ」

だから保谷くんは三人をアオる。