青っ洟垂らして泣いていた餓鬼が真っ当なことを言う。親父といてあんな話を聴かされるのだろうか。調子いいだけなんだろうか。励まされたような気もするし。

何にしろ俺の発育が悪い。

なるべく絵を視ないで額縁に入れて、朝、淳さんといっしょに新鮮な眼で視た。俺は額縁との映りを視たが、淳さんは絵を褒めてくれた。

「これ、太洋くん。この人たち、皆工房の人たち?」

「全員じゃない」

太洋は真ん中より少し右で鉄棒の蹴上がりをしている。ランニングシャツにカーキの作業ズボン。蹴って鉄棒に跳び上がろうとする爪先はナイキのスニーカー。肩と腕の筋肉がなかなか。髪の跳ね具合もいい。手首の赤いサポーターが明色だ。前景でベンチプレスしている奴。腕の震えと滲む汗、食い縛る口元に此方(こちら)も力が入る。画面右に逆立ちの大きい体躯。ややぼかして床を掴む手の甲の節や血管や皺が精密に描かれている。その手を睨む眼。シャツの裾が落ちて臍が見えて、パンツも落ちて膝に溜まって、バランスを失いかけた二つの毛脛が乱れている。そういう順に視線が誘われる。奥、画面の左上四半分にタイヤのサンドバッグを叩く男のグローブが朱。古タイヤの擦り切れ具合まで見える。レスリングやっている二人と、バンテージ弄っているらしい奴と着替えている奴と。目を凝らすとその手前に車……椅子に乗って視ている目鼻立ちがしっかり描かれた男がいて、右手が肘掛けの先のスティックに触れている……膝にボールを挟んでいる。愉し気な感じがある。

「彼が使える機械は二種類。片手で操作できる」

「よく描けている」

「どこかに光源があると立体感が出せるんだけど、あそこ、昏いでしょ」

「躰のサイズを誇張して奥行きを出したんだ」

眼を瞑って、開いて視てごらんなさい、と淳さんが言う。開いた一瞬、躍動していた群像の残像があってぴたりと静止したような錯覚。