描いた絵を見せに、町田画廊へ
しばらく、昼になると事務所に上がっていって親父を写生した。増田さんが来ると写生して、スマホも使った。モデル? 俺、そんないい男か? 行きつけの飲み屋に太洋と連れて行ってもらった。飲み屋を知らないって、お前、坊さんでも来るぜ。
がろうに行った、がろうに行った、と工房がざわついていた。太洋が、なかなか俺らしかったよと言ってきた。全員、誰かわかった、いい気分だ、だって。F三とF二〇の額縁を注文した。太洋は、やったね! 上機嫌で同僚一同に柏餅とノンアルの缶ビールを振舞った。
俺も増田と見に行ったよ、と親父が言う。あれはうちの絵だから会社で買ってここに飾るのがいい。それはありがたくない。どうしてなんだ? 画廊もうんと言わないんだ。絵が欲しいのなら、花でも景色でも只で描いてやるよ。そんな物、只でもいらねえよ。
二か月で二〇号の『飲み屋の親父』と『トラック乗り』を仕上げて、親父と増田さんの貌がいい味だったのでデッサンに墨を載せただけの頭を三号に仕立てて、町田画廊に行った。『工房の隅のジム』を二か月預けっ放し、預かりっ放しが妥当かどうかわからない。イーゼルに置いたままだった。町田氏は白のTシャツにグレーの上下、裸足に黒のドライヴィングシューズ。参ったなあ。ご無沙汰とも言いにくいし、もじもじしてしまった。
「描きました」
宿題を先生に出す小学生じゃないぞ。
町田氏は、やあ、と言って、また毛布を自分で開けて
「お父さんと飲み友だち、来てくれたよ」
微笑したようだった。
「ご迷惑では……」
「そんなことはない。応援団も、絵に描かれた人たちも、来てくれて、賑やかだった」
「行儀悪かったんじゃ……」
「畏まっていた」
言いながら長なげ押しの位置のレールを動かして、四枚の額絵を掛けて、医者がX線写真を視るように視る。こっちは患者の気分ではらはらして待つ。
売り絵は描かないんですかと言っているが、訊きたいようでもない。衝立の影の応接コーナーに招いて隅の珈琲メーカーから二つ淹れてテーブルに出す。
「お父さんは自分が買うのが当然だと思われるようだが、それは勿体ない、失礼だが」
「親父は、その、絵を売り買いすることがそもそもわからないから……」
「わたしは見せたい画商もいるし、絵が好きな人に紹介もしたいから、しばらく店に置いておきたい。経歴を付けるから、うちのフォーマットに入れといてください」
「……ありがとうございます……」
「木工やっていれば時間がないね」
「描きたい物を描くだけで……売りたくないわけじゃないけれど……」
「金は大丈夫ですか?」