清姫は羅技の額飾りを外すと、羅技の額には姫である証の菱形(かでん)の刺青が在った。一同は驚き、一斉に和清を見た。

「羅技はもとより我と清姫……そして亡くなった妃の由羅しか知らない秘密であった。羅技と幸が産まれた時、我は羅技を男として育てたのだ! これは由羅が羅技を次期里長にと我に頼んだのだ。

その後に紗久弥が産まれたのだが、元々身体の弱かった由羅は産後のひだちが悪くて床に伏せるようになり、一年後に亡くなった。しかし、羅技が女である真実は何時までも隠し通せるものでは無い。月に一度来る女である定めの日々を、里の武人達に次期里長になる為の務めだと偽りを言って羅技を神殿へ籠らせ、七日の間、清姫に守らせたのだ。

羅技の世話は全て清姫に任せ、羅技の館には誰も近寄らぬ様にした。羅技は我の期待に応えようと男の一倍いや二倍、毎日剣や弓や馬までも自由に扱える様に鍛練を積み重ねた。胸には自らが男である様に、鹿皮で作った胸板を仕込んでいたのだ。

他の里から戦をしかけられた時、羅技は何時も勇ましく戦って里を守ってくれた。我はいつしか羅技を男であるかと思う時もあった。が、しかし、身体に傷を負って館に帰って来た時は心の中で悔やんだ。

羅技は傷を見せては誇らしく笑っておったが、我にとっては大事な愛娘。羅技の身体に傷を負わせている父は真、愚か者であった。男の中に混ざり、常に先頭に立つ事は苦しく、辛かったであろう。今となってはもう遅いが、羅技姫が美しい女人の衣を纏っている姿を見たかった」

言葉を詰まらせながらも、和清は続けた。

「羅技の気性は分かっておる。龍神守の里を守る為、負けるのが解っていても剣を翳して堂々と戦うであろう。我と共に死なせてはならぬ。まして、羅技が女だと分かれば、あの阿修の保繁の事だ。面白がって身ぐるみをはがし、皆の前で恥ずかしめを受けさせた後、さらしものにして笑うであろう。父親としてそれだけは断固阻止せねばならぬ。重使主、仲根。そなた達に羅技。いや、羅技姫を託す」

「はい。この命に代えても姫様を御守り致します」

重使主は力強く答え、

「紗久弥姫様。羅技姫様の御二方を重使主殿と共に龍神(たつ)(もり)の里長の血筋を絶やさぬ様、身命に掛けて御守り致します」

と中根も強い意志を見せた。

突然、和清は二人に両の手を付いた。するとすぐさま、重使主と仲根は畏れ多いと和清に傅き、頭を深く下げた。

「我は外に居る家臣に羅技は姫達を守る為、この里を出たと言う。皆は得心するであろう。重使主、仲根、羅技姫が目を覚ますと、おそらく怒り狂って暴れるであろう。暫く姫の手足を縛り、森宮の館へ閉じ込めるのだ。日が経てば徐々に落ち着くであろう。さあ、森宮へ行け」

重使主は羅技を背中に負った。

「姫様達も御早く!」

中根が清姫に手を差し出すと、清姫は首を横に振った。

清姫は祭壇に掲げてある鏡を手に持ち、

「わたくしは巫女姫でございます。すべきことを致さねばなりません。この鏡は二百年もの長きにわたり、この里を豊かに平穏に暮らせる様にと龍神様が最初の御当主になられた秀清殿に与えられし鏡です。巫女姫自ら鏡を拝殿の奥に在る龍神様を祀っている祠に返さねばなりませぬ」