雑草管理に関連するさまざまな事柄について

ここまでは、定義、起源、生態、有用性などについて述べました。ここからは、雑草の生物学的な特性ではなく、雑草によって間接的に引き起こされる事柄や雑草に関わる事柄、例えば雑草管理方法などについて述べることにします。

1.遺伝子組換え作物と不耕起栽培

作物栽培技術の一つである遺伝子組換え技術が最近になって綻び始めています。ここでは遺伝子組換え技術が開発された経緯と破綻の原因を雑草の視点から探っていきたいと思います。遺伝子組換え作物について述べる前に、まず作物の起源について説明します。イネは中国長江流域の雲南省辺りで発祥したと考えられており、その祖先は赤飯のルーツで赤米と呼ばれる野生イネ(weedy red rice;)という雑草です。

おそらく栽培を始めた頃は一つの穂に数粒くらいしか種子を着けず、しかも出穂すると直ぐに脱粒してしまったと思われます。人類は8000種ものイネ科植物の中から、どのようにしてイネを栽培作物として選んだのでしょうか。そして遥か遠い未来にコシヒカリのような美味しいコメが栽培されることを予測したでしょうか。古代人の先見性には驚かされるばかりです。

また、ダイズの起源は中国の黄河流域と考えられていますが、東京都北区にある約6000年前の縄文時代前期の集落遺跡から出土した土器にダイズの祖先種であるツルマメの痕跡が確認されていることから、ダイズは世界各地で同時多発的に栽培化された可能性があります。写真の植物がダイズの祖先種のツルマメです。ツルマメの種子はわずか2~3ミリメートルの大きさしかありませんが、約5000年前の縄文中期の遺跡から1センチメートルほどのマメが見つかっています。

[写真]ダイズ(Glycine max (L.) Merrill)とその祖先種のツルマメ(G. sojaSieb. et Zucc)(小笠原)

つまり、縄文前期から中期までの1000年間で縄文人は雑草のツルマメから作物のダイズを改良したことになります。図表に示したように、イネやダイズをはじめとする多くの作物が雑草あるいは野生種から改良されたもので、このことが遺伝子組換え作物が破綻した原因の一つといえます。