第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割
Ⅱ-3 技術と経済
2. 企業の技術開発
次に、安い労働力を使って商品価格を下げ、優先的な販売を行うことを目的に、生産拠点をより安い労働力の国へと展開します。図表1に示すように、日本における労働力が安かったときは、日本が世界の生産拠点となって、国内での消費のみでなく海外への輸出が増えました。
1990年代からは、中国が「経済特区」などを作って海外の企業からの設備投資を受け入れています。安い労働力を用いて低価格の商品を生産して世界へ供給し、その収益から国内労働者の生活も向上し、国内での消費需要が増大して世界における生産拠点となって、国内および世界へ供給しています。
安い労働力の国においても、労働者の生活水準が上がってくるとその労働力を維持するための生活費が高くなり、労働者の賃金が上がってきます。そうすると、企業はより労働力の安い国へ生産拠点を移していくようになります。世界における賃金格差が依然としてあるため、こうした流れは今後もしばらくは続きます。
これまでは中国だったものがインドへ、そしてアフリカへと続いていくと思われますが、いずれそれぞれの世界の労働者の生活格差が縮まってくれば、このような労働力の安さを求めた生産拠点のシフトの動きは収まってくるのではないかと思います。生活格差を生み出している賃金格差が縮まってくれば、労働力の安さに依存した収益も次第に下がってくることになります。
一方、人件費の安さに依存しない収益拡大の方法が、生産効率の向上や独占的な品質を持つ商品の生産、新しい商品の開発などです。生産設備を刷新して生産時間を短縮したり、これまでにない品質の製品を生産したりするといった生産技術の開発が行われます。日本は優れたもの作りに力を入れて品質を上げ、売り上げを拡大してきました。ドイツも日本と同じように、生産技術の開発に力を入れています。
また、より優れた機能を持つ商品の開発や、まったく新しい機能や目的の商品が開発され、それに対する需要がマッチングすると、新たに飛躍的な売り上げの上昇が起こります。特に、最初にその商品を開発した企業は売り上げを独占し、収益を上げることができます。
企業は既存の商品の売り上げ上昇が鈍ってきたときには、技術革新の競争を行うことになります。こうした生産技術の革新や新商品の開発を起こすのが技術の開発です。したがって、技術の開発は企業の収益を上げるという活動にとって重要な役割を持っています。技術開発と消費者の要求との関係を図表2に示しました。
消費者のニーズ(需要)は常に進んでいきます。豊かさへの要求は、衣食住などの基本的な需要が満たされてくれば落ち着いてきます。次には、より機能の高いものや個人の趣向に応じたもの、個人の生活スタイルに合わせたものへ需要が変化していきます。
それを踏まえると、消費者の価値観や倫理観も大きな役割を持っています。「環境にやさしいもの」を求める価値観が備わってくれば、そのような商品に対する需要が増えますので、社会的な価値観、コンセンサスも重要な役割を担っているのです。企業としては、そのような需要に応える技術開発が求められてきます。