平和への希望

安らかな死

刑務所の中にある病院で、カルロスはコカインの誘惑ゆうわくたたかった。逮捕された日から、コカインを吸うことはできなくなったので、コカインがほしくて死にそうな毎日が続いた。

しかし、もっとカルロスを苦しめたものがあった。それは、コカインを何カ月もやめているのに、自分の頭にフォークを突き刺したときのような興奮状態がしばしば起きることだった。

そんなとき、カルロスはとても乱暴になり、手がつけられなかった。興奮のたびに体力が落ちて、命がけずられていくのがよく分かった。

そればかりでなく、カルロスの体はコカインのためにボロボロになり、心臓がすっかり弱っている。腰の骨がもろくなって、立つことができなくなってしまった。

カルロスは、ベッドの上にじっと横たわったまま、これまでのことを思い返していた。(自分の人生はどこかで、まちがった方へ進んでしまったのだ)そう思う気持ちが、だんだん強くなってきた。

(もし、やり直せるとしたら……)

そう空想することがたった一つの楽しみとなり、そんなとき、カルロスの頭にはいつも故郷の牧場が浮かぶ。

そして、母とフィオリーナの姿が牧場の風景と重なって思い出されるのだった。