―羅技の歌―
羅技は大きな館に着くと和清の部屋の前に傅いた。
「父上様。羅技で御座います」
「入れ」
羅技は幸姫から送られて来た文を見せた。
「この文を包んでいたのは私が幸姫に婚礼の祝いとして渡した領巾の切れ端と……」
途中、言葉を詰まらせ、ガタガタと身体を震わせた。
「さ、幸姫の髪の毛の束がありました」
羅技が、最後の言葉を振り絞り終えると、和清は文を懐に入れ、がばっと立ち上がった。
「おのれ。最初から我を騙すつもりであったのか。すまぬそなたの言う通りであった。可哀相な幸姫よ……」
和清は屋敷の外に居る家臣を全員屋敷内に呼んだ。
「阿修の保繁の奴は我等を欺き、幸姫を死に追いやった。保繁は兵を率いてこの里を手に入れようと進軍して来ておる。幸姫が最後に送ってきた文には日付が示して有った。明後日の早朝、阿修の兵が里に到着するであろう。我が里に居る武人は五十余足らず。幸姫の婚儀に立ち会った羅技が見て来た阿修の兵の数はざっと四百名は居たそうだ。到底敵わぬ。お前達は里人と共にこの里より逃げよ」
家臣達は全員その場に立ち上がり、
「我々は和清様、羅技様と共に武人として堂々と戦います!」
そして剣を抜くと、高く突き上げて「うおー」と叫び出した。
「我々は、命ある限り戦おうぞ! 阿修の奴等に龍神守の武人の誇りを見せてやろうではないか」
「おおーっ!」
和清は皆の言葉に涙を浮かべ、羅技は腰に携えた剣を抜き、武人達に命を下した。
「迎え討つ用意をせよ!」