羅技は、見覚えのある布で包まれている包みを見て、目を見開いた。恐る恐る開けてみると、中には長い髪の毛の束と文が包まれていた。

羅技は身体を激しく震わせ、髪の毛を包んでいる領巾をぎゅっと握りしめて文を読むと、同時に悲鳴にも似た叫び声を挙げた。

「うお~っ」

そこへ偶然、花を手向けにやって来た紗久弥姫が、叫び狂う羅技にしがみついた。

「兄上様?」

「保繁の奴め、許さぬ。やはり我の思う通りであった。あちらこちらに卑劣な手口で戦を仕掛け、次々とムラや里を襲って己が里を大きくしている阿修の保繁が、我が小さき龍神守の里と友好を結ぶなど、我は疑念を抱いた。友好の親善だと偽りを言って、奴は里の様子を探りに来たのだ。まんまと策略に落ちてしまった。里に入れるべきではなかった。そして何より幸姫の婚姻に異議を唱えて、断固反対するべきであったのだ」

羅技の手に握られている髪の毛の束を見た紗久弥姫の顔は、サッと青ざめた。

「あ、兄上様……。こ、これは? この髪の毛の束は、もしかして幸姉上様の?」

羅技の目から一筋の涙が零れ落ちた。紗久弥姫に髪の束を渡すと、

「幸はすでに命絶えておる……」

と力なく言った。

束ねた髪を切るという行いは、自ら命を絶つという龍神守の里に語り伝えられし(ことわり)だった。それも、姫達が嫁ぎし先に謀反の企てがあり、逃げ出せない状況に陥った時や、その企てに加担せざるを得なくなったら龍神守の里の血を守る為に決断しなければならなかった。

「我はこのことを急ぎ、父上に知らせに行く。お前は姉上の居る神殿へ行きなさい」

羅技は父親の居る館へ走って行った。

仲根は風神丸を抱きかかえると、羅技の後を追った。

紗久弥姫は領巾に包んだ幸姫の髪の束をぎゅっと抱き締め、大声で泣きながら神殿へ駆けて行った。