―羅技の歌―
幸姫! そなたの歓びは我の歓び。そなたの哀しみは我の哀しみ。我は誓う! そなたが幾久しく平穏で笑顔を絶やすことがなき様、そなたの名前「幸」の通りに幸せに日々が過ごせる様に我は全身全霊を込めてそなたを護る。
羅技の心の唄
我が我である為に我の心に在る全てをそなたに託そう! 我は一心にそなたの幸のみを願う! 幸姫! そなたは我の分身であるのだから!
夕餉を終えた羅技は部屋に戻り、日送り帳に本日の所見を書き写していた。ふと、床に目をやると、花入れに活けた花が昨日のままであるのに気付いた。
「ふっ! 紗久弥は来なかったか……」
その時、突然、重使主が部屋へ駈け込んで来た。
「そなたは我の言い付けを忘れたか? 何時も言っていたであろう。日が落ちたら我の部屋に入って来るなと。急用が在れば部屋の外から声を掛けよと。それなのに、履物も脱がず、いきなり部屋へ飛び入るとは」
「ら、羅技様……無礼は重々承知しております。が、しかし……」
重使主は身体を震わせ、外を指差した。
「ん?」
重使主が指差す先を見ると、そこには身体中傷だらけになり、激しく息をきらして今にも倒れそうな風神丸の姿があった。
羅技は部屋から飛び出ると、風神丸の身体を抱きかかえた。
「風神丸。この姿は如何したというのだ……。そちは幸の傍から離れず居るはずであるのに」
風神丸は弱弱しく首を上げ、首輪に結わえてある布包みを見せた。