第八話 初手柄

ヘロイーナの訓練が始まった。初めは、タオルを固く巻いて骨のような形にしたダミーで遊ぶ訓練だ。ソフィアがダミーをふり回すと、へロイーナはそれを取ろうとして大騒ぎする。ソフィアの体の周りをぐるぐる回ったり、とび上がってくわえようとする。ダミーがあれば遊んでもらえることを覚えるのが訓練の第一歩だった。

それができるようになると、ソフィアはダミーを草むらにかくして探させるようにした。へロイーナはなかなかダミーが見つからないと、つまらなくなって探すのをやめそうになる。

「探せ!」

そのたびに、ソフィアの声が飛ぶ。へロイーナがダミーを見つけると、ソフィアはおおげさにほめてやった。へロイーナの体を乱暴に転がしてその上におおいかぶさり、体中で喜びを伝えた。へロイーナもほめられて、とてもうれしそうだ。へロイーナの目の上には茶色の模様があるので、舌を出してハアハア息をしている顔は、まるで笑っているように見える。へロイーナの得意な笑い顔だ。ソフィアとへロイーナは、だんだん姉妹のように仲良しになってきた。

「へロイーナ。これからは本物の麻薬を使った訓練よ」

ソフィアは、へロイーナの顔を両手ではさんで目をじっと見つめながら言った。

次の日、ソフィアはダミーのタオルにマリファナのにおいを付けた。マリファナは、草のような甘いにおいだった。少しずつ、へロイーナはダミーではなく、マリファナのにおいを探すことができるようになった。

ソフィアは、かくし場所を地面の下や壁の中というように、難しくしていく。へロイーナが、マリファナのにおいをかぎつけると、ソフィアはすぐにポケットからダミーを取り出して、へロイーナと長い時間をかけて遊ぶ。へロイーナはマリファナのにおいを見つけると、遊んでもらえるということを理解した。

ソフィアは、マリファナのにおいを覚えたへロイーナに、コカインのにおいをかがせた。コカインは甘いような苦いようなにおいだった。

「へロイーナ。このにおいをよーく覚えて」

この国の麻薬で一番多いコカインは、しっかり覚えなければならない。へロイーナは難しいコカインのにおいも、すぐに覚えた。

その次は、へロイーナの名前にもなったヘロインだ。このようにして、へロイーナは三種類の麻薬のにおいを全部覚えたのだった。

ソフィアとへロイーナがこうして、訓練を続けていたある日、所長がソフィアを呼んだ。

「へロイーナの訓練はだいぶ進んでいるようだな。そろそろ、試験を受けてみるか?」

へロイーナが正式に麻薬探知犬になるためには、必ず合格しなければならない試験だ。

「はい。必ず合格します。試験を受けさせてください」

ソフィアが答えた。それからというもの、訓練所の人たちはへロイーナを見ると、

「へロイーナ。がんばれよ」

と声をかけてくれるようになった。