第4章 フィオリーナからへロイーナへ
次の日からさっそく、テストが始まった。朝早く、ソフィアが大きな車を運転して訓練所から警察署にやってきた。車の中には麻薬探知犬を運ぶボックスが入っている。
「さあ。へロイーナ、私とドライブに行こう」
へロイーナはうれしそうに車にピョンととび乗り、ボックスの中へ入った。出発だ。ソフィアの運転する車は、住宅地をぬけ、どんどん走っていく。道がだんだん悪くなってきた。でこぼこ道が続くと、へロイーナはボックスの中で不安そうに腰を浮かせた。ソフィアはわざと乱暴にハンドルを動かして、車をゆらしながら、ルームミラーを使ってヘロイーナの様子を見ている。麻薬探知犬はいろいろな所へ行くので、車に酔ようような犬では無理なのだ。
二時間後、へロイーナを乗せた車が、やっと警察署の庭に帰ってきた。ボックスから出されたへロイーナはうれしそうに地面の上にとび降り、体をぐっとそらせてのびをした。そして、ブルブルと頭、体をふるわせ、最後にしっぽをプルプルとふり回して、しっかりと立った。車の中であんなに不安そうだったことなど、すっかり忘れたようだ。
「へロイーナ。よくがんばったね。合格よ」
へロイーナとソフィアは、その後もいろいろな場所へ行った。すべて、麻薬探知犬の素質があるかどうかを見るためだった。飛行場へ行き、ものすごい爆音を聞いた日もあった。犬は大きな音がきらいだ。たいていの犬は大きな音を聞くとおびえて歩けなくなってしまうのだが、へロイーナは全く平気だった。一瞬、びくっとして音の方を見るが、すぐソフィアの顔を見上げながらどこまでもついてきた。
「よし、いいよ、へロイーナ。その調子」
その後も、海へ行って、ゆれるボートに乗ったり、吊り橋をわたったり、人混みの中を通ったり、真っ暗な夜のジャングルへ行って、動物の恐ろしい鳴き声を聞いたりした。乱暴に所長室のドアをノックする音がしてソフィアが入ってきた。興奮してそばかすのある顔が赤くなっている。
「所長。へロイーナはきっとすばらしい麻薬探知犬になりますよ。私にハンドラーをやらせてくださって、本当にありがとうございます」
所長が口を開く前に、ソフィアはバタンとドアを閉めて出ていってしまった。へロイーナには麻薬探知犬の素質があることが分かったので、ソフィアは正式に訓練を始めることに決め、へロイーナの犬舎を警察署から訓練所に移した。麻薬探知犬には、貨物や郵便にかくされた麻薬を探すアグレッシブドッグ(*注1)と、運び屋が衣類やかばんの中にかくしている麻薬を探すパッシブドッグ(*注2)の二種類がある。ソフィアは、へロイーナをアグレッシブドッグにすることに決めた。