それでは、私の事例を見てみましょう。X氏がA班長に、ドレスを汚された女性のYさんが私に該当します。A班長が課長に、私が3月XX日に年次休暇を取るということを伝えていなかったのは間違いありませんが、これは単純に伝え忘れていたものとも考えられます。部下が年次休暇を取ることを意図して課長に伝えなかったとしても、誰も得する人間はいませんので。

以下は、私の推測です。

そして、当日、課長が私の行動を見て思い違いをし、A班長に私に注意するように強く言ったのでしょう。おそらく、課長の言い方には、私の上司であるA班長への非難(部下の管理はどうなっているのかなど)がかなり含まれていたのではないでしょうか? このとき、A班長はとっさに保身を図って「自分も何も知らなかった。今日、永嶋が年次休暇を突然取るなどという行動はまったく予想できなかった。自分も永嶋にしてやられた被害者である」という態度を取り、「悪いのはすべて永嶋」ということにして、課長の自分への非難をかわしたのではないかと推測されるのです。

この結果、「永嶋が当日、許可なく年次休暇を取った」というでたらめが真実になってしまい、A班長は、翌朝、課長に言われたことをそのまま私に伝えたのでしょう。A班長としては、自己保身のために真実を課長に言わなかったという負い目がありますので、私がいくら抗議しても「だから、怒るなと言ってるだろう」と繰り返すことで、今度は私の抗議をかわして、悪いのは課長だと私に印象づけたかったのです。

先ほどのパーティーの例では、X氏は理不尽とは理解しながらも、わざと「自分はあわて者なのです」という言葉を繰り返すことで、Yさんの非難を封じて、何をしても許される安全な立場に自分を置いてしまっています。A班長も同様です。私が当日、年次休暇を取ることは百も承知だったのに、自己保身を優先して、それを課長に言わなかったという負い目があります。これが、X氏がYさんのドレスを汚してしまったことと同じ負い目になるわけです。

そして、X氏がわざと「自分はあわて者なのです」という言葉を繰り返すことで、Yさんの非難を封じたように、A班長は「だから、怒るなと言ってるだろう」という言葉ばかりを繰り返すことで、悪いのは課長であり自分ではないという立場に自分を置いて、私の非難を封じようとしたのです。

以上は私の推測に過ぎませんが、A班長が自己保身のために、「シュレミール」というゲームを私に仕掛けたと考えると、今回のわけのわからない事例の説明がつくのです。

では、この「シュレミール」を仕掛けられたら、どうしたらよいのでしょうか? バーンは、「シュレミール」では、Yさんのように我慢し続ける側も、無意識的な誘惑に駆られてゲームに参加していることになると解釈しています。無意識的な誘惑というのは、バーンの言葉では、Yさんのように我慢し続ける側は「自己抑制に苦しむ姿を満足そうに見せびらかしている」ということになります。正直、私は、バーンの解釈には少なからず抵抗があります。

しかし、我慢し続ける側も、感情を抑制して我慢することで、結局ゲームに参加していることになるという解釈は大変参考になります。つまり、「シュレミール」を仕掛けられた人が、感情を抑制して我慢しなければ、ゲームは成立しないことになります。例えば、Yさんはパーティーという公的な場であることを配慮して、感情を抑制せざるを得なかったわけですが、パーティーの主催者に話をし、主催者からX氏にドレス代を弁償するように話をしてもらうといった毅然とした対応を示すことで、「シュレミール」を仕掛けたX氏に対抗できることになります。

では、私の場合はどうでしょうか? A班長は私の直属の上司ですので、いくら抗議しても、暖簾(のれん)に腕押しとかわされてしまうでしょう。この場合、A班長でも課長でもない、第三者に話をして、自分の無実を訴えることができればベストです。このため、会社のなかに、そのような味方をつくっておくことが大切になります。

しかし、会社というところは複雑ですので、必ずしも、そのような味方がいるとは限りません。その場合は、残念ですが「このような、つまらない人たちを相手にしても仕方がない」と相手にせずに忘れてしまうことも必要になるのです。

「シュレミール」のゲームの対処法

感情を抑制して我慢せずに、第三者に話をして自分の無実を訴え、シュレミールを仕掛けた相手に毅然とした対応を示す。しかし、相手にしないことも大切。