「出雲大社に蛇って、ちょっと神聖な感じがするね」
楽しそうな顔をしている。
「どういうこと?」
さっぱり意味が分からない。
「専門領域じゃないからうろ覚えだけど、出雲族の神々に縁のある動物が蛇で、天孫族の神々に縁のある動物が鳥だった気がする。そういう縁がある存在のことをトーテムって言うんだけど」
「ちょっと待って、出雲族と天孫族って? あとトーテムってなんだか分からない……」
シュウは嫌そうな素振りも見せずに、解説してくれた。「トーテム」というのはあまり理解できなかったが、日本の神々には伊勢神宮の御祭神である天照大神の子孫たち天孫族と、ここ出雲大社の御祭神である大国主たち出雲族の二系統(という呼び方が適切かは分からないが)があるということは分かった。
「へえ」
素直に面白い。神話とか伝承って人間の創造力の賜物だと思う。シュウの専攻は文化人類学で、時々披露してくれるこういう蘊蓄を聞くのは楽しい。話の内容自体が面白いのか、シュウの話し方が上手なのか。多分、その両方だろう。
彼は二年生の頃からあちこちにフィールドワークに行き、そこでの観察記録をレポートにまとめる作業をやっている。「大変じゃない?」と聞いたら「フィールドワークも文章を書くことも嫌いじゃないからな」とさらっと言ってのけた。
ちらっとそのレポートを見せてもらったことがあって、面白そうな研究をしているな、と思った。その時も、内容が興味深かったことに加え、文章表現が上手で感心した。同じ内容でも伝え方によって相手に与える印象って変わるんだな、ということを知ったのはその時だった気がする。
同級生だから恥ずかしくて口にしたことはないが、俺はシュウの勤勉なところを結構尊敬している。だから俺の第一志望だった新聞社に、俺が落ちて彼が内定をもらえたことは、とても自然なことだと頭では分かっている。