去年〜学生最後の一年〜
さて出雲旅行だが、俺たちは肝心なことを見落としていた。出雲に神々が集結するのは「旧暦」の十月。今の暦でいうと十一月後半である。これではご利益は期待できそうにない。しかし、気づいたのは出発二日前だったのでキャンセル料が発生する。結局テンションが下がったまま出かけることにした。
朝、出雲縁結び空港(なんて露骨な名前!)に到着したその足で出雲大社に行き、とにもかくにも拝殿で参拝をすることにした。俺たちのようにうっかり暦を間違える人は少ないようで、大社は空いていた。参拝の列も短かったので、すぐに自分たちの番がきた。二礼二拍手一礼で参拝を済ませ、次の人に場所を空けようとした時、
「あ、出雲では二礼二拍手じゃなくて、二礼四拍手な」
シュウに指摘された。もう一回やり直せと言外に言われているのが分かった。細かいな、と面倒くさくなってしまう。
「知らないし、もう終わっちゃったし。別に自由でいいだろ」
「お前なんでも雑にやりすぎ。ちょっとしたことで守れるマナーなんだから。そういうところはちゃんとやろうよ」
本当に細かいやつだ。
「そういうとこってなんだ?」
「そう聞かれると答えにくいけど。生活する上で丁寧にした方が良いとこだよ。いつもは適当でも、大事にしないといけないことってあるだろ」
だから彼女に振られたんじゃないのか? と言われたようでカチンと来た。だがそれは、ネガティブ思考に陥っていた俺の思い込みかも知れない。だからグッと堪えた。
「よく分からないけど。じゃあ、次来た時は気をつけるよ」
結局そのまま次の人に場所を譲った。まったくバチが当たるぞ、とシュウが呟いたのが聞こえた。
出雲大社の敷地は広い。拝殿と本殿を参拝して鳥居に戻るまでに結構歩く。朝早く羽田を発ってから歩きっぱなしで疲れていた俺は、もともとどん底の気分だった上に、ご利益も得られそうにないので、自分でも珍しいくらい毒づいていた。
「ついてないな俺は。第一志望の会社にはいけないし、彼女には振られるし。もう仕事なんてどうでもいいや」とか「みんな何が楽しくて会社のために一生懸命働いてるんだ」とか。公共の、しかも神聖な場である。振り返ると恥ずかしい限りだ。
突然、参道脇の木々の合間から一匹の蛇が姿を現し、俺の前を横切ろうとした。俺は蛇が苦手なので、距離を置いて通り過ぎるのを待っていると、そいつは俺の方に鎌首をもたげた。目があった。ゾクッとした。金縛りにあったように動けなかった。本当に蛇は苦手だ。苦手というか、蛇好きには申し訳ないが、生理的に受け付けない。
蛇が通り過ぎた後「蛇、見た?」とシュウに尋ねたら、認識はしていたようだが、驚いたり怖がったりということはなかった。彼は蛇が気持ち悪いとか怖いという感覚がないらしい。俺からしたら驚きなのだが、そういう人もいるようだ。もしかして、俺の感覚がマイナーなのか? なんて考えていたら、