その瞬間、私の胸のあたりで「バキッ」という音がした。何かが折れたような音で、物理的な衝撃も確かにあった。何が折れたのかは分からないが、ニホにも聞こえたのではないかと思うほど、大きな凄い音であった。私は何か言おうとしたが、喉にその折れた物が引っかかっているようで、なかなか声が出てこない。

「………」

「なほ子ちゃん?」

「あ、ああ、本当に? それはおめでとう。良かったね」

やっと絞り出した声はかすれていた。

「ありがとう。静真さんが卒業したら、すぐ二人で鹿児島に行くの」

胸のあたりで折れた「何か」が引っかかったまま、なかなか取れないので、少しずつニホ達との距離をとっていけば、その「何か」が溶けるだろうと考えたが、実際にはニホの方からあまり連絡を寄越さなくなった。

結婚や転居の準備などで忙しくなったのだ。私は丁度良かったと思い、放っておいた。このままもう、音信不通にしようと思った。海人が二年間の研修医期間を終えた頃、ニホから久しぶりにメールが来た。

式や披露宴はせず、婚姻届のみ出したという内容と、鹿児島の住所、それと、静真の心理カウンセラーとしてのメールアドレスがあり、「何か困ったことが起きたら連絡をください」と書いてあった。

「占い屋に相談することなんて何もないっつうの」

と私は毒づいたが、メールを削除するのは何となく思いとどまった。