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しかし、1月、2月と冬が深まるにつれて千夏は「寒い」と言い出した。冬が寒いのは当たり前だが、千夏の実家は飛びぬけて雪が多い地域であると、そのとき初めて聞いた。私は小さいころから寒がりなので、彼女のキツさは痛いほどわかった。
何せ、小さい頃は朝起きると兄とストーブの前を奪い合い、それでもシーズンに必ず1回以上は風邪やインフルエンザになり、学校を休んでいた。友だちが投げた雪玉が顔に当たると泣き、子供会でスキー場に行ったときは、室内にも拘わらず、寒さに耐え切れずに泣いてしまった。
大学生の頃にインターネットで寒さに強くなる「コツ」を調べ、実践することでようやく人並みに寒さに耐えられるようになった。そのコツとは、お風呂での半身浴、そしてできるだけ二の腕や太腿を冷やし、血流を良くすること。それを千夏に教えると、「ここでそれをやると凍えて死んじゃう」と言われ、確かに寒い地域では自殺行為かもと頭をよぎった。
しかし、私は別のことを気にして、千夏にとんでもない「約束」を持ち掛けてしまった。「休肝日を設けよう」と。
かねてから、千夏の肝臓が気になっていた私は、1日2.5Lもアルコールを呑む彼女が心配でならなかった。だから、二人で毎週日曜日を休肝日にしようと提案したのだ。千夏は快く賛成した。呑む量も減らし、私の好きな日本酒に挑戦するなど、仲はずいぶん良くなっていた。
また、今までお金しか興味がなかった彼女が、私の好きなスポーツ観戦に興味を示し、「カープ強いんだね」と話すなど、毎日の連絡で切っても切れない関係になっていたように思う。
また、千夏の面白いところは、「自虐」で私を笑わせてくれることだった。はじめは男子サッカーの日本代表の試合について話していたときだ。「日本負けそうだね(汗)」と私がLINEすると、
「私も出場するよ!」
「え! あなたも出るの?」
「見てると参加したくなっちゃう(笑)」
「活躍しそうだね。1点よろしく」
「任せて! ボールと一緒にゴールに突っ込むよ! ちょっと参加してくる(笑)」
私は驚いた。発言の天然さもそうだが、体を張って笑わせるのは男である私の役目。それなのに、それを一身に引き受け、頑張って私を笑わせてくれる千夏が愛おしかった。