こうして無事に経済学部に入学できたわけですが、入学してからが大変でした。まず住む場所を考えたとき、校内にある男子寮が便利だと思って申請したのですが、なんとテストがあるというのです。寮長と面談をするのですが、日本に一時帰国していたので電話面談となりました。寮長が
「うちの寮に入ることであなたは私たちに何を与えてくれますか?」
と聞いてきます。寮なんてご飯食べて寝る場所くらいにしか考えていなかったので焦りました。
「ええっとぉ、私が入寮することでジャパニーズカルチャーがエンジョイできますよ。何か不祥事を起こしたら腹切りとか土下座とかしますので」
何て適当なことを言ったら気に入ってもらい、無事に寮に入れました。「ウェルカム、腹切りボーイ」のでき上がり。イギリス文化の影響からか、夕食時に食堂に集まる際、ネクタイとアカデミックガウン着用、靴は革靴のこと、なんて決まりがありました。それでも食事中の会話なんて女の子の話ばっかりだし、話す姿と内容が合っていなくて滑稽でした。入寮してから一週間、通学中は寮のレンガを一つ肌身離さず持ち歩くこと、なんて意味不明なルールもありました。レンガを持っている生徒を見て、「お前も同じ寮かあ」と妙な連帯感が芽生えたのは事実です。
現在、その寮は男女共用になっていますが、当時は女子寮の生徒を週末に呼んでパーティーするなんてこともありました。私は奥手ですので部屋に籠っていると、ほろ酔いのイケメン中国人留学生が訪ねてきて、「おい、コンドームないか」と聞いて来るわけです。「静かにな」とか言って渡したり、実に大らかなものでした。
よく、「日本の大学は入るのが難しくて出るのは簡単。海外は逆で、入るのは簡単だけど、出るのは難しい」と言われます。入学して実感しました。本当です。テストで半分の点がとれないと単位が貰えないのですが、半分以下の平均点なんてザラにあります。
「この点数マジかー!真面目に勉強しないとヤバい」と入学早々に思い知らされることになり、大学生活は勉強最優先となりました。本当にもう勉強漬け。寮の自室で飽きたら図書館、図書館で飽きたら寮に戻るの繰り返しで一日殆ど勉強に追われていました。しかも、前述したように授業中は発言しないと評価されないのです。ぼーっと聞いているだけじゃダメで、十点満点中二点なんてこともあり、「さすがにこの科目は単位とれないか」とギブアップしかけた講義があります。
それでもウェイトの高い最後の筆記試験で挽回し、及第点で単位がとれた時は嬉し涙をこぼしたことがあります。正直、嬉し涙を流したことなんて人生に数えるほどしかありません。それくらい大変だったし、やりがいがありました。反対に、全く歯が立たず、単位を落として悔し涙を流した講義もあります。