「ええ、一年の時に同じクラスになって。……海人さんて、なほ子ちゃんが今、結構気に入ってる人よね」
「そう。君達仲は良いほうなの?」
「……そうね、普通に良いほうだと思う」
「なほ子さんは、海人のこと、どのくらい本気なのかな?」
「私はかなり本気だと思う。海人さんってなほ子の理想の相手だもの」
「で、まあ、その喫茶店で私と付き合ってくださいって頼んだの」
「ニホちゃん、彼のこと人間じゃないから付き合えないって言わなかった?」
私はやっぱりこの子には呆れるわ……と思った。
「そうなんだけど、考えてみれば私、静真さんにはっきりと振られたわけじゃないし、それに彼は人間じゃないから、彼と本当に相性が良い人なんて、この世にはいないと思ったの。だったら私が名乗りをあげてもいいかな、と思いなおして告白したの。そしたら、いいよって返事が」
「軽っ」
私はしかし、この二人はうまくいくかもしれないという予感がした。どちらも俗世間から少し離れた所に生きていて、お似合いだという感じがしたのだ。
「道理であれからちょっと付き合い悪いな、とは思ってたんだけど。でも全然気がつかなかった」
「すぐ振られるかもしれないと思って、何となく言わずに今日まで……。それに、あの人、バイトが結構忙しくて、あまり会っていないの」
静真とアルバイト。ピンと来ない組み合わせである。
「バイトってなんの?」
「夢占い。よく当たるのよ」
「……あのねえ……」
真面目な顔で言うニホに、私は頭を抱えた。
「ただの占いじゃないのよ。実際に夢の中に潜り込んでその人の深層心理を当てるのよ。なほ子も良かったら一回」
「結構よ。っていうか夢に潜り込むって何よ。ニホちゃん、大丈夫? 今のうちに逃げた方がいいんじゃない?」
「大丈夫、全然変な商売とかじゃないよ。それに、あたし、実際に夢を鑑定してもらったの。凄いんだよ。あのね……」
「あたしを巻き込まないでね」
みなまで聞かずに、私はニホの話を遮った。ついていけない、と思ったせいもあるが、ニホの、「夢の中に潜り込む」というセリフを聞いて、私はいつかの夢の白い砂浜で、静真が私の手を握ったその白い手の感触があまりにも生々しかったことに今更ながら気がつき、ゾッとしたのだ。私は俄かに自分の右手が気持ち悪くなり、夢の感触を払い落とそうと、ブルブルと振った。ニホが怪訝な顔で私を見ている。やっぱりあの男に関わってはいけないと改めて思いながら、私はもう一つ気になったことを口にした。
「なんで彼、私が海人さんのことをどのくらい本気かなんて気にするのかしら」
「さあ……友達のことが心配なんじゃない?」
海人の方は、静真のことを友達とは思っていないし、むしろ馬鹿にしているよ、と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。そのかわりに、
「私と付き合って何が心配だっていうのよ」
と言っておいた。