どのように解決したらよいのか
さて、これはどのようなゲームなのでしょうか?
実は、この先輩は私に「大騒ぎ」のゲームを仕掛けているのです。
「大騒ぎ」のゲームというのは、例えば学校の教師と生徒の関係でいうと、生徒が授業中に次のような行動をとって、教師の関心を引き、騒ぎを大きくしていくというものです。
それは、授業中にバーンと大きな音を立てて教室中の関心を引く、席から立ち上がって教室のなかをうろうろする、わざと周りのクラスメイトに話しかけるといった行動です。
生徒はこのような行動をとることで、周りに不快な刺激を与えて、教師や周囲の怒りを誘い、教師や周囲が注意を与えると、さらに騒ぎを大きくする行動をとるのです。
しかし、こういった行動によって、生徒は周囲の関心を得ることができるのです。例え、それが教師や周囲から非難されるというマイナスの関心であっても、生徒にとっては、問題はないのです。その生徒にとっては、プラスであれ、マイナスであれ、周囲の関心を得ること自体が目的だからなのです。
では、これを先輩に当てはめて、考えてみましょう。
そのプロジェクトは私の担当であり、先輩は関係がありませんでした。しかし、その先輩はたまたま以前、そのプラントの設計を行ったことがあり、その経験をもとに私の設計をチェックしたのです。その目的は、もし私の設計に間違いがあれば、それをもとに大騒ぎを演じることで、周囲の関心を自分に集めることだったのです。
そして(先輩にとっては運良くと言っていいでしょう)、目論見どおり、私の設計が間違っていることを「発見」したのです。あとは、もうその先輩の一人舞台です。担当でもないのに、実績会議では、声を大にして「永嶋の設計は間違っている」と言い続け、あげくは工事を行う工場に出かけていき「永嶋の設計が間違っている」ことを解説する説明会まで開催したのですから。
先輩が「大騒ぎ」のゲームを演じていたと考えると、私がその先輩に「どこが間違っているのか、教えてください」と何度頼んでも、コンピューターの計算用紙を投げて寄こすだけで、無言を貫き、一切話をしなかったこともよく理解できます。
つまり、私が間違いに気づいて、そのプロジェクトが中止になってしまえば、「大騒ぎ」が終了してしまうためなのです。「大騒ぎ」を継続し、なおかつ、だんだん騒ぎを大きくして、自分に注目が集まり続けることが、その先輩の目的なのです。このため、先輩としては、私が間違いに気づくことは具合が悪いのです。このように、先輩が「大騒ぎ」のゲームを仕掛けてきたと考えると、すべてが説明できます。しかし、間違っていたのは私ではなく先輩のほうでした。
それでは、このような「大騒ぎ」のゲームを仕掛けられたら、どのように対処すればいいのでしょうか?
この「大騒ぎ」のゲームの目的は、騒ぎを起こすことによって、自分に注目を集めることにあります。したがって、仕掛けた人間と口論をしたり、自分も会議を開いて設計内容を説明するといった対抗策をとると、ますます騒ぎが大きくなるばかりですから、相手の思う壺にはまってしまいます。このため、ゲームを仕掛けられたからといって熱くなったり、興奮したりするのは逆効果になります。
すなわち、このゲームでは、あくまで、冷静を保ち、自分の設計を再検討し、間違いないことを確認して、その先輩を無視することが最良の策なのです。しかし、会社といった閉鎖集団のなかでは、なかなか先輩を無視することはできないのが実情です。最低限、周りの人に、自分の設計は間違っていないことを告げて、その先輩との接触を極力避けて距離を置いて対処するというのが現実的な方法だと思います。無視されるというのは、騒ぎを大きくしたい先輩から見ると逆の効果になります。
このため、先輩を無視することによって、先輩がさらに騒ぎを大きくする行動をとることが予想されますが、それもすべて黙殺してしまうのです。つまり、「大騒ぎ」のゲームを仕掛けられたならば、大騒ぎとは逆の行動(無視する、放置するなど)をとって対抗すればよいのです。
その結果、大騒ぎの原因が私のミスではなく、先輩自身の計算ミスだとわかった途端、このゲームは終了することになるのです。
「大騒ぎ」のゲームの対処法
大騒ぎとは逆の行動(無視する、放置するなど)をとって対抗する。
相手が、さらに騒ぎを大きくする行動をとっても、すべて黙殺する。