「イエス・バット」のゲームの対処法
このゲームでは、さまざまな対応が考えられる。
もし、自らの権威づけがゲームの目的だったら、相手にしない。
ただし、実害を受けないような対策は講じる。
いくら尋ねても無言を貫く先輩「大騒ぎ」のゲーム
私が化学プラントの設計や工事の仕事をしていたことは、すでに述べました。
化学プラントの仕事は、安いもので1億円程度、高いと数百億円の予算規模になります。このため、プロジェクトの遂行には大きな責任を負います。
また、期間も2年程度かそれ以上という長期間を要するのが通常です。あるとき、私は日本初という新規技術を導入するプロジェクトを担当していました。
規模は10億円程度の仕事でしたが、日本で初めてという新規技術であったため、いつも以上に、メーカーとも綿密に打ち合わせを行い、またテスト設備で何度も試験を実施しました。
そして、最も大切なのは私自身の設計ですので、何度も計算を繰り返し、計算間違いのないようにできる限りの対応を行っていました。
さて、主要な設備の発注も完了し、プロジェクトが半ばに差し掛かったころのことです。同じ職場にいる私の先輩が
「永嶋の計算は間違っている。このプロジェクトは失敗する」
と言い出したのです。その先輩は、プロジェクトの担当ではなかったのですが、なぜか私のプロジェクトに首を突っ込んできて、実際に自分で計算をして、そのような結論に至ったようなのです。
当時、私の所属する部では、月に1回、実績会議を開いていましたが、実績会議で全部員の前で毎月、その先輩は声を大にして
「失敗する。失敗する」
と繰り返して言うのです。
実際に設計計算をしたのは私とその先輩だけですので、部のほかの人は、そのように言われても、どちらが正しいのか判断がつきません。
私は、何回も計算をやり直したのですが、どうしてもどこが間違っているのかわかりませんでした。その先輩に何度も
「どこが間違っているのか、教えていただけませんか」
とお願いしたのですが、その都度、その先輩はコンピューターの計算結果を印刷した用紙を、黙って自分の席から私の席に投げて寄こすだけなのです。
正直、この態度には、いくら先輩でも、同じ人間として腹が立ちました。そして、先輩は一言も話してくれませんでした。何を聞いてもまったくの無言なのです。
コンピューターの計算結果は、その先輩が勝手にXやYと定義した記号で記載されており、当然、私にはどの記号が何を表しているのかわかりません。記号の意味を先輩に聞いてもまったく無言で、一切教えてくれないのです。
そのうち、その先輩は、その設備を導入する工場に勝手に出張していって、工場関係者を集めて「永嶋の計算が間違っている」ことを解説する説明会を開いたのです。
ちなみに、私は、その説明会には呼ばれませんでした。話がここまで大きくなると、さすがに部長も私に
「どうなっているのか?」
と聞くのですが、私は自分の計算のどこが間違っているのか、さっぱりわからず
「わかりません」
と答えるしかありませんでした。話はどんどん大きくなっていきます。ただ、私とその先輩しか設計計算をしていないので、誰もどちらが正しいのかわからない状況が続いていました。