健康な中間層の厚みを増す効果

波頭亮によれば、アメリカでは、ボランティア活動の規模はGDP換算で15%に上るほどであって、日本にこの比率をあてはめると金額にして80兆円と、ほぼ国家予算並みである。さらにアメリカは個人の寄付金の額も圧倒的に世界一で、国民一人当たり年間1700円しか出さない日本人の50倍の約8万6000円である(『プロフェッショナル原論』 波頭亮 筑摩書房 2006年)。

また、同一労働同一賃金といっても、業種間によって差異があり、同じ業種の中での労働には熟練という付加価値が存在する。

一般的に非熟練労働者としてスタートする若者も、家族を持ち、子育てをし、親の世代を支えるようになるライフステージにおいては、仕事の熟練者として、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)に住み、FCV(燃料電池自動車)やEV(電気自動車)に乗り、日常生活に伝統的な工芸品があり、ボランティア活動や地域コミュニティに参加し、「環境・社会・ガバナンス」に力を入れる企業へ投資(ESG投資)するような中間層を形成できるようにすることが理想であろう。

そのためには、仕事の習熟に加えて、リカレント教育や自己研鑽に時間がさけるようにすることが必要である。職業訓練校を充実し、職人の技術を承継するような連携を深めることも大切である。

労働によって社会に貢献し、自己有用意識や自己尊重意識を高めることのできる社会の実現である。

労働時間を短縮し労働生産性を高める効果

ひとり親家庭で育つということは、保護者が一人であるということだけを意味するのではない。一人しかいない保護者が仕事中心の生活をせざるを得ないために、子どもは親と接する時間も限られ幼いときから長時間一人で過ごさねばならない。

しかし、BIは生活費と「家族の時間」を増やすことができる。ダブルワーク、トリプルワークの必要性も緩和できる。BIには労働時間減による所得補償の意味合いがあり、生活費を賄うために残業する必要性を減らす。

ただし、この効果を帳消しにするような賃金単価の引き下げを監視するため、労働基準監督署の権限と体制を強化する必要がある。

やりたいことがある人にとっては、BIは「やりたいことをやる時間」の給付という意味がある。たとえば、月10万円のBIは、時給1000円だとすれば、100時間、つまり1日8時間労働とすれば、月に12・5日分の時間が与えられたことに匹敵する。

BIが給付されると人々が「働かなくなる」という批判がある。確かに生産活動における賃労働は減る可能性があるだろう。しかし、本来の意味での「しごと」は減らないだろう。自発的な家事、育児、介護、ボランティア活動等のソーシャルワーク、あるいは社会生活を営む上で必要不可欠な仕事であるエッセンシャルワークや、文化芸術活動が増えるからである。

ギリシャ、ローマ等の古代文明やルネッサンス期における学問・文化・芸術活動等は、「働かなくてよい人」によって花開いたのと同じである。