俳句・短歌 短歌 2021.11.08 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第24回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 定めなき人の命と説く僧の 言葉諾うべなふ病みつつあれば 妹のみ魂送りし帰るさに 螢とらへて又放ちたり 遠山を覆ひてたむろする雲の 影の暗きは嵐かこもる
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第14回】 内海 七綺 あいつを殺して作ったダイヤ。深海のような藍、本当に綺麗…一つじゃ足りない。もう一つ欲しい。次は誰にしよう 家族旅行で行った夜の市の雑貨店にぽつんと置かれていた、夜光貝の魚が泳ぐ黒い漆塗りの箱。その中には赤いビロードが敷かれていた。普段ものを欲しがらない雪子には珍しく母にねだったが、「子供には高価だ」と一蹴された。だから母の財布からお金を抜き取って、夜にこっそり買いにいった。物欲には乏しいが、幼い頃から一度欲しいと思ったら我慢できる性質ではなかった。これと思ったものは、それがどんなに高価だろうと入手困…