俳句・短歌 短歌 2021.10.31 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第21回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 よべの雨のたゆたひ流れし跡ならむ 窪みにつきて藁くず乾ける 日並なめて降りつぐ梅雨に親しもよ 畦越す水のちかまさり聞こゆ 翼張り稲田の上を飛ぶ鷺の むき変はる時日に光りたり
エッセイ 『ねぇねぇみかどのおばさん』 【第3回】 六谷 陽子 不良とつるみ始めた近所の男の子…。駄菓子屋のおかみが決行したのは「えこひいき」作戦!? 一 みかどを閉店します富山の片田舎から下町に嫁いだ頃は、母も人間関係で苦労したようです。当時は、各家庭には水道は通っておらず、共同水道を十世帯くらいで使っていたのです。そこに行けば、他の誰かが必ずいます。特に水を使う時間帯は同じだから、会わずにすませる、というわけにはいかなかったようです。年配のおばさんたちは、個性的で嫌味を言う人もいれば、優しい人もいます。年配らの会話を笑いに変えて楽しむ若妻も…
小説 『赤い靴』 【第7回】 高津 典昭 泥酔漂流事故は一瞬にして人口僅か213人の島の隅々にまで知れ渡り「島の恥」と陰ではささやかれ、学校では「酔っ払いの子」といじめられる辛い日々 ところが、世間が許さない。ここからこの家族は転落していく。転落させた張本人は祐一である。沖ヶ島は人口僅か213人の小島であり、絶海の孤島だ。絶海の孤島であるが故に、二つしかない集落では、祐一が引き起こした泥酔漂流事故が一瞬にして島の隅々にまで知れ渡った。この先もずっとこの島で生きていかなければならないのに、島民はみんなが思っていた。泥酔して漂流して世間を騒がせたことに憤っていた。漂流は船の故障な…