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殺人現場
大東は、再度混乱しかけた頭を整理し直した。その結果、次のようなストーリーを描いた。
一九九〇年十月十日、どこかで行われたSという頭文字の人とIという頭文字の人が結婚し、記念に花瓶を作り、関係者に支給した。それを受け取った一人が井上もしくは井上の知人で、それを使用していた。
どちらかというと、花瓶に花を生けたりするのは、男より女だ。大東は、花瓶から女性と思われる細い指の指紋が検出されていることから、この女性が持ち込んだ可能性が高いと推理した。
SとIという名前の二人の事情聴取は済んでいるだろうか……大東は念のため、この花瓶をビニール袋に入れ、署に持ち帰った。
「SやIという名前の者は沢山おりますが……」
部下の磯山刑事が、今までに事情聴取を行った三千百七十四名の名簿をチェックした。
「仮にこの中にいたとしても、みなアリバイがありますから、犯人ではありません」
「……う~ん、そうだなあ……」
「それなら、逆に、この日に挙式をしたという事実からこの二人を探してみてはいかがでしょうか。結婚式場や引出物屋から当たればわかるかと。金沢市内の結婚式場から始めるか、もしくは、害者の生活圏を調べるかです……」
磯山からの提案だった。
「それじゃ、洗ってみるか。どこの誰からどこの誰に渡ったものかを洗うことにしよう」
捜査は袋小路に入ってしまっていたので、このような些細なことでも調べざるをえなかった。しかし、この作業も、手当たり次第に試みるしか、他に方策はなかった。
その時、捜査陣は五人に減っていた。翌日、金沢城南警察署の捜査本部は久々に活気を取り戻していた。捜査本部では、
『90,10,10,S+I』
と記入された引き出物が、井上に渡されたものなのか、それとも第三者に渡されたものを井上が譲り受けたものなのか、そこが知りたかった。
「刻まれた日付の一九九〇年十月十日の時点で、害者はどこの店に勤務していたのか調べてくれ」
大東が磯山に命じた。磯山は、既に棚の上にしまい込んでいたファイルを取り出した。そして、手垢の付いたページをめくった。
「その頃、害者は池袋店にいましたね」
「池袋か、東京だなあ……害者がもらったものなのか、それとも誰かに害者がもらったのか、どちらかだろうが……」