第5章 相続、再び
直美の遺産相続手続きが、終了してから3年が経過した年の春頃、元夫の実家がある町内に住んでいる、私の友達の夫が死亡したとの連絡があり、葬儀も家族葬で終了させたと聞いたので、私は友達の家を訪問する事にした。
訪問して彼女に会ってみると、以前と比べて少し疲れたような顔をしているように感じられたが、私と違って足腰はスムーズに動かしていたので一安心した。
話を聞くと、彼女の夫は1年ほど前からガンの転移が全身に確認されて、いつ死んでも不思議ではなかったとの事だった。そんな会話をしていると、友達からこんな事を聞かされた。
「ところであなたは知っているのかしら? あなたの元夫が2ヶ月ほど前に死亡して、彼の実家に住んでいる兄さん夫妻が葬儀に参列した話があったのを、隣の住人から教えてもらったのだけど」
私は驚いた。姉の法律事務所で別れてから連絡もしていない。まして、元夫に興味もなかったので思い返す事などなかったが、なぜか嫌な予感がしたので友達との会話を早々に終わらせて、姉の携帯に電話をかけて元夫が2ヶ月ほど前に死亡した事を伝えた。
すると、姉からすぐに法律事務所に来るように言われたのでとりあえず向かった。到着すると姉は、すぐに私を応接室に入室させてから、後で廃棄する紙の裏面に簡単な家系図を描き始めた。そして、その家系図を私に見せながら話し始めた。
「ひろみ、もし元夫の江藤光夫が本当に死亡したのなら彼の法律上の遺産相続対象者は、再婚して現在の妻となった元夫の愛人と雄二ちゃんの2人になるの。それなのに、江藤さん側から、実子の雄二ちゃんに何の連絡も無かった。直美ちゃんが死亡した時、あなたはしっかり実親の江藤さんに連絡したのに。あなた、おかしいと思わないの?」
私は姉の説明を聞いて、やっと事の重大さに気がついた。
「今から一緒に市役所へ行って、江藤さんの戸籍と雄二ちゃんの戸籍をもらってきましょう。あと、夫には江藤光夫さん名義の銀行口座が残っていないか、調査するように依頼しておくわ」
そう言った後、私達は市役所に向かった。私の頭の中では少し理解できてない部分もあったのだが、とりあえず姉と一緒に行動する事に遅れないように、身体の痛みを感じながらも頑張ってついていった。
すべての必要な戸籍を取得した後、急いで法律事務所に戻って2人で簡単に書かれた家系図と取得してきた戸籍を照合したら、江藤光夫と薬師雄二が実の親子であることが証明できる事を確認した。そのあと、姉の夫の薬師貴弘が私達に加わり話し始めた。