娘の死

次の日から雄二と2人で、市役所に提出する書類の整理や墓に納骨をするなど、予想以上にやらなければいけない事が多かった。

そのためここ数日、私は身体に激しい痛みを感じて我慢できなくなっては休憩して、回復してから行動しての繰り返しだった。それでも、なんとかやらなければならない事をすべて終了させて、やっと直美の遺産相続の手続きをする事になった。

この手続きは最初から姉に依頼しており、直美名義の口座がある銀行への連絡や提出書類の準備などスムーズに行動してくれたおかげで不慣れな私は非常に助かった。その姉が書類などを持って、私の自宅に訪れてこう言ってきた。

「直美ちゃんの銀行口座の通帳と本人が自筆で書いた遺言書がこの家にあるかしら?」

私は分からなかったので、姉と2人で直美の部屋に入って探してみた。相続対象の通帳はすべてなんとか見つけることができたが、遺言書は見つける事ができなかった。

「自筆の有効な遺言書があって、元父親に自分の遺産を全額相続しないと拒否する意思が書いてあれば、ひろみが非常に有利な状況になるのにね」

「直美だって、まさか親の私より先に自分が死亡するなんて考えてもいなかったから、遺言書が無くて普通じゃない」

「そうかもね。それと一つ疑問があるのだけど、元父親がなんで直美ちゃんの相続対象者だと分かったのかしら? お互い、協議離婚してから一切連絡もしてないのでしょう」

「私も子供達も本葬に参列して分かったと思うけど全員、元夫に対して嫌悪しているから、誰も連絡していない事は確かよ!」

姉はそれ以上質問してこなかった。そして、私に手続きを姉の法律事務所で行う事と、手続きを行うのにお互いの都合が良い日時を聞き、相手と話し合って決まり次第、すぐに連絡すると言って姉は帰っていった。

そして、姉が指定してきた直美の遺産相続手続きを行う日の朝がやってきた。私は姉の事務所に指定時間の30分前に訪問して、元夫との面談が開始されるのを待っていた。

それから20分が経過した頃、元夫が事務所に訪問してきた。そして、姉と一緒に応接室へ入室してきた。そのあと全員が座り、遺産相続手続きの準備ができたところで姉が元夫に質問した。

「赤羽さん、ちょっと質問したいのだけど、あなたはどうして直美ちゃんの相続対象者であることが分かったのかしら?」

元夫はしばらく考えて、私達の表情を確認してから返答し始めた。

「それは協議離婚した後で、偶然にもひろみと義姉さんが乗った乗用車を、私がとある場所で見つけられたので、あなた達にバレないように追跡したら、ひろみの実家と違う住宅の前でひろみが降りてその中に入っていくのを確認できたので、あとはその住宅周辺の住人に家族構成などを聞いてみたら、直美に自分の子供がいないままバツイチとなってひろみ達と同居している事を知る事ができた。

なので確認の為に本葬から帰宅する時、ひろみに遺産相続について質問してみたら、話の内容から私が相続対象者であることを確信した。そこで弁護士の義姉さんに相続手続きについて協力をしてもらいたくて私が相続対象者であることを強調したのさ」

私と姉は驚いてしまった。同時に後悔してしまったが、今さらどうにもならなかった。

それから後は、姉の言うとおりに手続きが進行していった。その間、私と元夫とは会話もなく、ただ進行状況を見守るだけだった。全部の書類の手続きが終了してから姉が元夫に話しかけた。

「赤羽さん、名前が江藤に改名されていますけど、何があったのですか?」

「なぜ、そんな事に答えなければいけないのですか。あなたには関係ないでしょう」

私はすぐに答えた。

「姉さん、江藤は私達が協議離婚の原因となった、不貞行為の相手女性の苗字です。おそらく、再婚して改名されたのでしょう」

「相続手続きとは、関係のないプライベートな事まで質問しないでほしいね」