Mがある日、
「神社に行こうぜ」
と誘ってきた。神社に着くと、Mは胸ポケットからガサガサとタバコを取り出し、ジッポのライターで火をつける。
「おおっ! タバコ! カッコイイ!」
と思いつつも、ヘタレな僕はタバコを吸う度胸を持ち合わせてなくて、
「へー、M、タバコを吸うんだー。スゲェなあ、おい」
とか言っていた。
「ハタショウも吸う?」
と言われたけれども僕は吸わなかった。噎せたらカッコ悪いし。
でも、あるとき学校から帰って「勉強だりー」と思って過ごしていたら、Mのタバコを思い出した。
「タバコかぁ。親父のタバコ吸ってみるか?」
リビングに行き親父のタバコを一本取り、部屋の窓を全開にしてライターで火をつける。別段何もなく煙を肺に入れ、大したことないとそのまま一本吸った。ドキドキしながら、
「僕も悪になったぜ、えへへ!」
なんて思いながらにやけていた。
その後、マンションの一階エレベーターホールにあるタバコの自販機でKENTを買い、学校帰りにMと一緒に神社に行った。
「へへっ、M。俺もタバコ吸うわぁ。ジッポ貸してくれ」
とシュボッと火をつけタバコを吸う。缶コーヒーを飲みながら話して過ごしたこの神社は、いわば僕たちの聖地となった。
僕は毎日学校が終わるとせっせと神社に通う。一人でも、雨の日でも。缶コーヒー片手にタバコをプカプカさせたこの神社、とても小さく5人もいれば座るのは窮屈になる場所だった。まあ、多くても集まるのは3人くらいだったから問題ないけど。
この神社に来るのは、僕といまでも連絡を取ったりLINEでやり取りしたりする、野球部のH、一番仲の良いKちゃん、そしてMだ。
本当に夜遅くまで神社にたむろしては、自分の境遇や愚痴、面白い話、いろんなことを語り合った。いまでは考えられないくらいの時間、夢中になって話し込んだ。
高校3年の卒業間近に、Kちゃんの進学先がアメリカになるかもということになって、付き合っていたAさんに別れを告げられたと電話で報告してきた。
ほんと可哀想で、Kちゃんは泣きながら神社に来て、Aさんからもらったであろう手紙を握り締めていたが、
「これ、燃やすよ」
と言い出した。Mが黙ってその辺の枝で穴を掘った。そこに手紙を置き、Kちゃんがジッポの火を点けるとメラメラと燃え始め、すぐに灰になった。
みんな、その間は押し黙ったままだった。Kちゃんはたまーにその神社の近くを車で通ると
「懐かしいねー」
なんてLINEでよこしてくる。そのたびに
「ああ、あそこでKちゃんとみんなが泣きながらいろんなことを思ったな」
としみじみ思い出す。