猫の松方君
その去勢をした猫の中で忘れられない猫がいる。
その猫はオス猫でガタイもでかく、光沢がかった青っぽい毛色をした、その名も「松方君‼」と私らは呼んでいた。松方君は決してこの地に居着く訳ではなく、さかりの時期になると、どこからともなく現れて、メス猫をはらませて去って行くという「さすらいの猫」であった。
はらまされたメス猫は、ここで子猫を産んでしまうのだから、その母猫と産まれた子猫を同時に捕獲しなければならない私らは、何とかして松方君を去勢させなければとやっきになったが、松方君はけっして人間にはこびず、いつも威風堂々とこの地を闊歩し、メス猫に流し目を送り、子供を作り去って行くのくり返し、なかなかわなにかからなかった。
何回か失敗をくり返した後に、私がふとボランティアさんのエサではなく、うちの店の大トロならどうだろうとエサをすりかえたら、何と見事に松方君はわなにかかった。やはりうちのマグロは大そううまい‼ めでたくわなにかかった松方君を病院に連れて行き、かわいそうだが玉をとった。
さて、この話はこれからが本題だ‼ 今、ちまたでいろいろゲスな芸能人の話が世間をにぎわしているが、おばちゃんはそんなゲスを見るたびに松方君を思い出す。
さて、玉をとった松方君が病院から帰ってきた。あのあばれん坊でいぶし銀の松方君の事。そうとうお怒りで、捕獲器から放されたら、まっ先に私にくってかかって、かみつかれるんじゃないかとドキドキ、ハラハラしながらおそるおそる松方君を放した。
びっくりした‼ 捕獲器から現れた松方君はまるで別人? のようだった。あのいぶし銀で威風堂々の姿はこれっぽっちもなく、腰が引けて、まるでへっぴり腰、おどおどと回りを見まわすと、こそこそと近所の駐車場の車の下に入り込み、しばらくは出てこなかった。
それからの松方君は、まるでIKKOさんのようなふるまいになり、体つきも女性のよう。私らにこびまでふるってきて、他ののら猫と肩を並べて仲良くエサを食べるようになり、もちろん、本妻、愛人の数匹のメス猫達としばらくはおだやかに暮らしていたが、いつの間にかいなくなっていた。
ちなみにどののら猫も捕獲器に入れられたうらみを忘れないようで、こんなにお金をかけて時間も使って一生けん命にこの地で彼らが生きやすいようにしてあげたおばちゃんになついたのら猫はIKKOさんになった松方君くらいしかいない‼ 今ちまたでゲスなニュースになってる芸能人におばちゃんは言ってやりたい! あんたのはそれはりっぱな性癖だよ‼ どんなに女房にあやまってもくせは直らない! 松方君のように玉をとるしかないねって!
ちなみに松方君の名前の由来は、おばちゃんの若い頃は、浮き名を流すというイメージがある今は亡き俳優の松方弘樹からいただいたのだ。でも今の芸能人のようにけっしてゲスではなかったけどね‼