夢解き
「あ、俺、出世とかしたくないから」
その男はそう言って、私の手から瓶を奪い、さっさと私のグラスにビールを注いだ。私としたことが、ついあっけに取られて相手のなすがままになってしまった。
*
その男は名を神﨑静真といった。噂では大変モテるのだという。
彼が来れば得意の占いを披露して盛り上がるので、コンパに引っ張りだこなのだそうだ。その占い男が明日のW大とのコンパに来るから、「なほ子ちゃんに一緒に参加してほしい」とニホから誘いがきたのだ。
「はあ? 占い? 何それ怪しいなあ。手相を見てあげるとか言って、手をベタベタ触って……」
「違うよ、タロット占いだよ。あたしも一回占ってもらったことあるけど、凄くよく当たるのよ」
(どっちにしろ怪しいじゃん。一回占ってもらったのが偶々当たったからって、それが何なの)
私はそう言おうと思ったが、普段は「恋バナ」に縁遠いニホが、珍しく積極的になっているのに興味を惹かれた。
ニホは見た目も中身も地味で、古風な言い方をすれば「慎ましい」タイプであり、特に恋愛に関しては、「私なんか……」と、いつも自分から舞台をおりてしまうのであった。そのニホが合コンに行こうと誘うのである。どんな男か見てみたい。
「だからさ、行こうよ」
「そうだね。ところでその人、学部は何?」
「文学部よ」
文学部! W大の学生と聞いていたので、「せめて政経学部なら……」などとほんの少し期待していたが当てが外れた。まあいい。占いは怪しいが、その大変モテるという男の顔は見ておこう。私はそう考えた。
私はモテない男には興味が無い。