夢解き
やがて静真のいる方から「わー当たってる! すごおい!」という女の子達の甲高い声が聞こえてきた。声のする方を見てみると、どうやら静真が例の占いを披露しているようだ。さっき私のグラスにビールを注ぐなり、さっさと別の女の子と話し始めた男が、得意げにカードの解説なんかをしている。ニホも他の女の子達に混ざり、手を叩いて喜んでいる。
静真の周りを舞う歓声が、何故か私をイライラさせた。気がつくと私は静真のそばに行き、
「結婚運、見てください」
と言っていた。
「え?」
静真は驚いた顔で私を見た。
「なほ子ちゃん、占いなんて怪しいって言ってたのに」
ニホが目を丸くして私の顔を覗き込んだ。
私も驚いた。何故そんな事を頼んだのか、私にもよく分からない。女性達に囲まれて調子に乗っている静真のことが、なんだか癪に障って、とにかくその場の雰囲気を壊してやりたいという気持ちだったが、そもそも何故癪に障るのか、何故「壊してやりたい」と思うのか、その理由が分からない。
「結婚運? ちょっとおおざっぱすぎるなあ。もう少し具体的にしてよ」
静真は、タロットカードを手で弄びながら言った。
「具体的?」
結婚運は、結婚運だろう。他にどう言えというのか。
「例えば今付き合っている人との相性とかさ」
きょとんとしている私に、静真が説明した。
「付き合っている人なら何人かいるけど、それとは関係なく、結婚運を占って欲しいの。どんな人と結婚するのか」
「……それじゃあ、これから五年間の結婚運を見てみようか」
いかにも「仕方ないなあ」といった顔つきで、静真はカードを手品師がトランプを切るように、鮮やかな手つきで切り始めた。
タロット占いと聞いて、ベールで顔を隠した占い師が、テーブルの上に広げたカードをゆったりと混ぜる画を想像していた私は少し意外に思い、
「テーブルの上で混ぜるんじゃないのね」
と呟いた。
静真は、私の呟きに答えずに黙ってカードを切り続けた。(なんか言えよ)と思いながらも、私の目は、うつむき加減になっている彼の短く刈り上げた美しいうなじから離れられなくなった。やがて机の上に何枚かのカードが裏返しに並べられた。
「外ではいつもこのやり方なんだ」
静真はここでようやく口を開きながら、カードも開いていった。
「君は策略家だね。野心家だし」
「そうよ。あなたの嫌いなタイプでしょ?」
静真はそれには答えずカードを読み続ける。私は余計なことを言ってしまったと悔やんだ。
「理想的な結婚ができるよ。お互いに家柄も学歴も容姿も釣り合った結婚だ。相性もいいよ。価値観の同じ男性と結婚するだろう。それも近いうちに」