拾って来た女

美紀は強引に女の手を取った。女は少しためらいを見せたが大人しく美紀に従った。二人はレストランに戻り駐車場に停めてあった美紀の車に乗り込んだ。

「これ使って。どこから?」

そう言いながら美紀は助手席に乗せた女に後部座席に置いていたタオルを取り出して手渡した。

「東京からです」

「ホテルは?」

「まだ決めていません」

弱々しく消え入りそうな声でそう答えると女は渡されたタオルで申し訳無さそうに雨に濡れた顔や髪を拭き始めた。美紀は車のキーを回した。エンジンの微かな振動がハンドルを通して美紀に伝わり、フロントガラスのワイパーが軋んだ音を立てて左右に動き出した。

「深くは訊かないけど何かわけがありそうね。東京からの観光客が今夜の宿も予約しないでこんな所に来るとは思えないから。貴方、名前は?」

「奈美、水森奈美です」

少し怯えたような声だった。

「ねえ、良かったら家に来ない? 私、スナックをやっているの。そこの二階に住んでいるのよ。もちろん一人。少し汚いけど泊めてあげるわよ。貴方一人ぐらいなら何とかなるから。そうしなさいよ」

美紀はそう言うともう決まったかのようにアクセルを軽く踏んで車を発進させた。

「お任せします」

唐突な美紀の提案であったが奈美は不安な目をしながら諦めたような表情でそう言うと助手席で軽く頭を下げた。俯き加減で無言のままの奈美を助手席に乗せて二人は漁火に着いた。