デート
もう家を出なければいけないのに、カミーユはまだ別のドレスを探している。お出掛け用のドレスなど、何着も持っているわけではない。でも、今のドレスだとなんだか、この黒いチョーカーが映えない気がする。今日はどうしても、このチョーカーでなければいけなかった。「やっぱりこっちに着替えよう」。そう決めてもう一度着替え直した。
「うん、やっぱりこれでいいわ」。そう思い定めたつもりでも、まだどこかちぐはぐではないかと不安になった。最後は結局、もう時間もドレスもないんだからとあきらめた。
クロードとはポン・デザールのルーヴル側で待ち合わせをしていた。自分が遅れたものと慌てて小走りに駆けてきたカミーユは、まだクロードの姿が見えないことに安心した。少なくとも待たせずに済んだ。開催中のサロン会場に近いこともあるのだろう。待ち合わせしていたらしい男女が巡り合ってはルーヴルへと向かっていく。
誰もが着飾って、貴族のようにすまして歩く。その誰もが幸せそうに見える。「私たちもあんな風に見えるかしら」。カミーユは通り過ぎるカップルの表情をそれとなく追っていた。クロードは、絵を描き始める時間だけはいつも予定通り。でも、終わりはまちまちで、筆がのってくると時が経つのも忘れてしまう。今日もまた、絵を描いているに違いない。
「カミーユ、カミーユ!」
遠くから、大きな声がすごい勢いで近づいてくる。クロードは息を切らし汗をかいている。
「すまない、つい夢中になっていて」
カミーユは思わず噴き出した。思った通りだ。クロードは、カミーユの首飾りにすぐ気づいたようだった。あまりしっかり見もしないで、「……よく似合う」とだけ言った。それから、慣れないしぐさで左肘をカミーユの方に突き出した。「今日は、サロンを観に行く紳士と淑女だよ」カミーユも、内心はドキドキしながらクロードが示した腕にそっと手を添えた。