時をかけるおばあさんたち:高齢者の幼児返り

私は3歳になる孫がいて、日々の成長の様子を見せてもらっています。

一方で高齢者の方の診療をしていると、高齢者と幼児に類似点があるなあ、と思うことが多々あります。それは、一般的に、「高齢者の幼児返り」と言われているようです。

例えば、幼児も高齢者も自己中心的であったり、依存心が強かったりするところが似ていると思います。

両者ともに、一般の社会人の生活環境と比べると限られた範囲内での生活となるので、思考が狭くなりがちです。幼児は精神機能がまだ発達途上であり、高齢者は精神機能がピークから衰えてきている、という違いはありますが。

また、私の患者は高齢者でも要介護者が多いので、日常生活に何らかの介助や介護が必要です。すると誰かに依存しなければ生活できないという点は幼児と同じなので、依存心が強くなるのも当然ではあります。

また、同じことを何度も言ったり、聞いたりするのも、似ているなあ、と思います。高齢者の場合には、難聴があったり物忘れがあったりもするので、もちろん幼児とまったく同じというわけではありません。

でも、一つのことを思いつくと、何度も繰り返して確認しないと気がすまない、という点では、似ていると思います。そして、「待てない」という点も似ていますね。

私が、高齢者の方の往診に時間通りに行っても、「ずっと待っていました」、「遅かったですね」と言われることがあります。

本人に確認してみると、「朝起きてからずっと待っていた」と、朝起きた時間からカウントされていたりします。順番を他人と競うのも、幼児と似ています。

幼児の場合は、滑り台やおもちゃを使う順番ですが、高齢者では診察やお風呂の順番など、「私のほうが来るのが早かった」「順番を抜かされた」などと、言い争いになることがあります。

そういう争いを避けるために、ある施設では看護師さんが診察の順番の札を渡すようにしていたことがありました。すると今度は、みんな1番の札を欲しがります。

そこである日、看護師さんはみんなを喜ばせようと思って、全員に1番の札を渡してしまったことがありました。その結果は想像される通りで、みんな自分が1番だと思って、もっと大きな争いになりました。

さらに、高齢者の患者にこちらからいろいろと尋ねると、幼児のように、思っていることを結構素直に話してくれることがあります。私もつい好奇心で聞き出したりしてしまいます。