診察時に
「具合はどうですか?」
と聞くと、
「身体はいいですが、精神的にちょっと……」
という答え。踏み込んで、
「どんなことで困っているのですか?」
と聞くと、
「私の悪口を言う人がいる」
とか、
「部屋に置いてあるものが盗まれる」
などと悩みを打ち明けてくれたりします。
ある日、男性高齢者に
「孫にお年玉を渡そうと思っていた4万円が盗まれた」
と打ち明けられました。この方は比較的しっかりした方で、具体的な金額も出たので、私は半信半疑で聞いていました。
すると、
「部屋に干してあったセーターも盗まれた」
とご立腹の様子です。施設で自室に干してある使いかけのセーターを誰かが盗むことは考えにくいので、それは認知症の物盗られ妄想の症状のようだと思いました。
幼児の場合も、聞いたことや思ったことなど、人に聞かれるがままに答えたりします。幼児の場合は、上記のような未熟な特徴があっても、今後成長して社会性も協調性も身についていきます。
ところが高齢者の場合は、ここからさらに衰え、より多くの介護が必要になっていくことになります。ここまで考えて、生まれた時老人で、そこから若返った話の映画があったことを思い出しました(『ベンジャミン・バトン数奇な人生※』)。
主人公は老人ホームで育ち、大人になって恋人と結婚し、最後に赤ちゃんになって亡くなります。
不思議な映画でしたが、人生はどの部分を取っても、その人間の見かけも中身も変化している、ということを改めて自覚させられました。