職業奉仕委員会
僕は、クラブで職業奉仕委員会に所属していたことがある。
うちのクラブの職業奉仕活動とは、せいぜい会員の営む事業所の見学程度のことで、たまに会員の市議会議員のツテで市議会本会議を公聴したり、同じく会員の弁護士先生の紹介で最高裁判所の見学や刑務所の見学をするなど、あまり直接には奉仕活動に繋がるものではなく、それが終わったあとの反省会と称した宴会がメインの活動であった。
あるとき委員長から、
「君が教えているTK大学を見学し、ついでに面白い教授が講義している授業を拝聴し、最後に学食で昼食を食べて昔日の学生時代を思い出したい」
という無理難題が提示された。しかし答えは、いつもの「ハイ!」だ。
加えて会員一人につき、女子大生二人を案内役に付け、学内を自由に見学できるように取り計らった。
なんでそんな無茶が出来たかというと、当時、僕はその大学の副学長を務めていて教授たちにも無理が効いたこと、女子大生にはロータリアンという人たちは皆、会社の経営者だから君たちの就職活動に役に立つかも知れないよ、との痴(し)れ言(ごと)が通じたからだ。
会員には、講義時間割表を渡して自由に好きな授業を拝聴してもらい、予め決めた時間にガイド役の女子大生と一緒に学食に集まることだけを決めておいた。
しばらくして、皆、自分の子供や孫のような女子大生に引率されて嬉しそうに学食に集まってきた。学食で感想を聞くと、皆さん大好評。ぜひ来年度もこの企画を継続して欲しい、とおねだりする会員(故人SUさん・プラスチック製品)もいた。
……こんなことが職業奉仕になるのかね? でも毎年度、似たり寄ったりの活動しかしてこなかったから、少しは刺激になったのかな。
ところで職業奉仕とはロータリーでもっとも重要な理念で、ロータリアンになる資格の第一は職業人であることが最低条件とされる。ロータリアンは自らの職業を通じて社会に奉仕することが必要で、そのため職業を有しない者は入会できないのだ。
一方、同じく世界的な奉仕団体であるライオンズクラブは、職業の有無とは関係なく、例えば高校生なども奉仕の心さえ持っていれば参加できる団体であるとの違いがある。
このロータリーの「職業奉仕」という概念をこれまで多くのロータリーの碩学(せきがく)たちが百家争論、タテからヨコから、オモテからウラから、明確に説明する答えを導き出そうとしてきたが、これまで誰もが納得する解答にはお目にかかっていない。
さらには、最初にロータリーの基礎に「service」を据えたのは、アーサーF・シェルドン(※14)だということは知っているが、大体、「serve」、「service」の和訳でさえ、「奉仕」では納得しない向きが多い。
僕は、これを単純に「貢献」と訳すべきだと思うが、それでもすべての状況に当てはまる訳語にはならない。ついでに言えば、「忠恕(ちゅうじょ)」という語も僕のなかでは有力な訳語なのだが、あまり賛成する者はいない。
僕は大学の授業で、一度、ロータリーのことを何も知らない学生たち約三○○人に対して「service」の和訳を試験に出したことがある。
一番多かったのが「貢献」であり、「奉仕」と訳した学生はほとんどいなかった。
日本のロータリーもその和訳において、もう少し一般受けするものを考えた方が良いのかもしれないと感じた。