我々の人生(我々が生きてゆく時の流れ)における作業を考えてみましょう。我々は人生の中で様々な出来事に会い、それが原因で日常の作業が困難になることがあります。災害や病気などのライフクライシスに遭うと、それまで当たり前だと思っていたこと、意識せずに行っていたことができなくなって、日常の作業のパターンが崩れ、生活が立ち行かなくなったり、孤立することも、落ち込むこともあります。
例えば、コロナによる外出自粛の状況で、多くの人々が馴染んできた作業や大切な作業、意味のある作業をする機会を失ったり、やり方を変えたり、新しい作業を始めたりしました。当たり前に思っていた作業を失って、生活の満足感や自分らしさを維持するのが難しくなった人もいるでしょう。生活に組み込まれていた作業が難しくなり、日常生活が崩れると、新しく作業を積み重ね生活を立て直すことが望まれます。
これまでにも、病気や障害のために、なんと多くの患者が生活を立て直すために作業療法士の援助を必要とし、作業療法士はそこに活躍の場を見出そうとしてきたでしょう。作業を通して、人は習慣、伝統、自分が信じてきたことや大切なことを他の人々に伝えます。家庭で、親は子どもにおつかい、料理、お片づけ、勉強の習慣、家庭行事、習い事を通して我が家の価値観や知恵を教えます。
世代を越えた時間の流れで作業を見ると、例えば、地域の祭りや行事や伝統を伝えるために、年長者は若い世代と一緒に文化的な活動に参加し、その交流を通して、関連する歴史や技術を教え、文化、習慣、価値観、技術、知恵を伝えています。そのように作業を通して、信頼感や所属感を高め、作業が両方の世代のウェルビーイングを促してゆくと考えることができます。
本連載には、実際の生活で行われる作業について耳を傾け、その作業の形態、機能、意味を理解しようというプロジェクトについて書いています。目的は作業の見方を学ぶことです。この後、その理論的基盤、やり方を説明し、実践例を紹介します。理論的基盤にしたのは、人を作業的存在として考える作業科学です。作業科学は、作業がどのように健康に影響しているのかに興味を持ち、知識を深め広めてきた学問です。
この「作業的写真」プロジェクトは、作業的存在の理解を深める一つの作業の見方を目指しています。作業は複雑なので、作業科学には他にも多数の見方があります。今回の方法は、あくまでも、一つの方法だと理解してください。この本は作業と健康への関心から生まれた本だとご理解いただければ、「作業的写真」というプロジェクトがわかりやすくなると思います。