一致団結 仕事はみんなで作る作品

仕事をしたかった。仕事をしている友達が羨ましかった。もう30年前の記憶しかないから、今のオフィスの雰囲気なんかわからない。テレビドラマで知るくらい。娘の話から予想するくらい。

東京のオフィス街で見かける「ネームホルダー」を首からぶら下げた人が輝いて見え、いつも羨ましかった。だから幻冬舎の方と電話でアポイントを取って、青山のオフィスで会うことになった時は、夢のようで嬉しくて小躍りしてしまった。

しかし浮かれ気分もそこまで。私には名刺が無いから、名刺は頂くだけ。私という人間を証明するものは何かと考えたが、よくわからない。あと二日で出来ることを思案し、とりあえず略歴と原稿数枚書くことにした。

まさか「運転免許証」や「住民票」が役立つわけもなかろうから。編集者の方もどんなに不安かと、私の方が心配になってくる。「身の程知らずのおばさんが、いきなり本を書きたいと乗り込んできた」なんて思われないように、いつもより化粧もしっかりして、少しでも知的に見えそうな服を選んで、緊張の面持ちで約束の時間5分前にオフィスに到着。結局私の心配は杞憂に終わった。

会った瞬間に相思相愛、話はトントン拍子。もうこうなると私は行動が速い。なんてったって猪突猛進の人。

この素敵な出版社のお姉さんたちに私の原稿を読んでもらえればいい。編集のプロに面白いと言ってもらえたらそれでいい。出版に向けて一緒に仕事が出来たら本望だ。一生に一度大それた夢が見られるだけで幸せだ。そのわずか1時間の初顔合わせで私の心は決まってしまった。