「ごめんなさい」
「いいえ、誰でも失敗はあります。大丈夫です。ただ、故意にかけたのだったら、失礼だし、女を軽く、甘く見ていませんか。男として最低です。気を付けて下さい」と化粧室に行った。
トイレで鏡を見たら、胸があらわに透けて見えた。ハンカチで拭いて出て行ったら、先程の男性。
「すみません。弁償させてください」と名刺を出す。
「結構です。乾いたら大丈夫ですよ。あなたの名刺はいりません。通してください」
「それでは気が済みません」
「結構です。通して下さい」
「名刺だけでも……」
「いりません。退いてください!」
少し声を大きく出した。俊さんが気付いて来た。私が胸を押さえて立っていたのでびっくりしていた。
「どうした!」
「大丈夫。行きましょう」
すかさず、俊さんがジャケットを脱いで掛けてくれた。
「妻に何かしたのか!」
と怒って相手を睨みつけた。
「す、すみません。奥様の洋服に水がかかってしまいました」
「故意ではないと信じましょう。行きましょう」
後ろから近藤さん。
「どうした?」と来た。
「あっ、君はサンジー建設の副社長?」
「あっ、近藤社長」
「こちらの奥様に、失礼をしてしまいました」
「行きましょう」
と手を強く引っ張って席に戻った。
「大丈夫か?」
「あなたの睨みでスッキリしたわ」
ちょうど帰るところだったので、すぐ店を出た。大将も玄関先まで来て謝っていた。
「ねぇ、何でいつもトラブルに巻き込まれるのかなぁ」
「そうだなぁ」
「私がいつも、ぼっ~としているからかなぁ」
「アハハハハ」
耳元で近藤。
「今井、ゆりさんって自分がいい女と気が付いていないな。すごいよ」
「トイレにも一人で行かせられないな。心配で」
「おっ、のろけか。さっきのサンジーの息子、悪い子ではないが、女癖が悪い。今井でもあんな風に睨むんだ。怖かったぞ」
「ゆりの事になると自分でも怖いぐらい抑えられない」
家に着いた。
「さっきの俊さんの睨みかっこよかったです。嬉しかった。惚れ惚れした。ウフフフ」