第一章 偶然現場を見た
「ねぇ、すみません。カフェオレのお代わり下さい」
今、ドーナツ屋さんで大好きなホットカフェオレを飲みながら主人との生活や子供達そして三週間前の事を思い返している。
あの時、あの時間にあそこを通らなければ。たられば状態でいる私。
主人以外に興味がなくて、一途の愛だった。敬愛という言葉は主人のためにあると思った。
二人の息子は独立し幸せな家族に恵まれて、一安心している矢先に三週間前の出来事があった。
真面目で仕事一筋の人で会社でも認められ、早くに部長に昇進した。
収入も安定して、私も仕事をしているので少し贅沢ができる生活で預金や不動産も増えた。
その日、ほとんど通ることのない道を会社の車で直帰することになり、ホテル街の近道を利用しようと思い急いだ。気持ちは少しドキドキ。
「どんな人達が利用しているのかな」
興味津々で出てくる車をニヤニヤしながら見た。
「えっ!」……軽自動車の助手席に見覚えのある人が……主人だった。
二度見をした。
「そんなはずはない!」と。
確かに主人だ! 私はなぜかとっさに、クラクションを思い切り鳴らした。
車を止めて主人にハンズフリーで電話をしながらクラクションを鳴らし続けた。
主人は出ない。それでも鳴らし続けて、主人が後ろを見た。主人はかなりびっくりしていたが車は止まらない。うるさいくらいクラクションを鳴らす。窓を開け手で左に寄る指示をしたら観念したのかようやく止まった。
運転席に行き、女性へ車から出てと話した。
「阿部ですが主人と付き合ってどれぐらい?」
彼女は答えない。
「正直に言ってほしい」
そしたら「一年ぐらいです」と。
「独身?」
「はい」
「何歳?」
「四十七です」
「将来結婚したいの」と尋ねたら、彼女なんと、
「したいです」と答えた。
あきれるやら悔しいやら怒りがこみ上げる中、自分でもこんなになぜ冷静なのかと思って驚いた。
主人を一切見なかった。
彼女に「わかった」と話し、自分の車にゆっくりと戻った。
車に乗った瞬間心臓が飛び出しそうにドックンドックンと波打った。
確かにきれいで私よりスマートだ。悔しいけど認めよう。
深呼吸を三回して、振り向きもせず、車を発進し通り過ぎた。
五分後、涙がこみ上げてくる。
悔しさがこみ上げる。許せない。裏切られた。離婚しよう。
本当に離婚できるのか。怖かった。