また、別の日には車いすの対応が必要なときもありました。琴平からの上り列車で車いすのお客様が乗っていたのですが、会話を聞いてみると韓国語だったので韓国の方だと分かりました。

駅での下車をスムーズにするため、どの駅まで行くのか尋ねてほしいという運転士からの頼みで、そのお客様に“Excuse me. Which station will you get off ?”と尋ねると“Ritsurin Koen.”とのことだったので、運転士から指令に栗林公園でステップを用意してほしいという連絡をしてつないでもらったことがあります。

このように最近は中国、台湾、香港、韓国からのお客様がとりわけ多いのですが、東南アジアからのお客様も増加しており、様々な国から観光で来日されることが多くなってきました。グローバル化の波は地方にも及んでいることを日々実感していました。

駅務実習中のやり取り

系統教習に入る前の8日間、私は主要駅での駅務実習もこなしました。

特に乗降客数が多い高松築港と瓦町の2つの駅では外国語による対応が必須でした。ことでんは、切符による自動改札は導入していないので、通常の改札や集札だけでなく外国人観光客だけが買える四国フリーパスなどの検札も行わなければなりません。

大阪出身の自分にとって、高松市内の地理を覚えることは研修中の最初の関門でした。加えて、駅でのお客様対応は単純なことばかりではなかったのです。例えば、瓦町駅でのこと。20人弱くらいの中国人団体客の添乗員さんから次のように声を掛けられました。

「ドーミーインに行きたいんですが。」

私はとっさに改札口に備え付けてあることちゃん(ことでんのマスコットキャラクターです)のイラストの入った2か国語の絵地図を手に取りました。

「どちらのドーミーインに行かれますか?」

というのも、高松市内にはドーミーインは2か所(香川県庁の近くと丸亀町商店街からすぐの場所)あり、添乗員さんはどちらに行けばよいのか分からず、困っていたのです。

私は英語が使える添乗員さんに、念のため、2か所への行き方を細かく説明しました。添乗員さんは「ここまで教えてくれたら後は探しますから大丈夫です。」と安堵の表情を浮かべていました。

また、駅務実習は仏生山でも2日間ありましたが、こんな出来事もありました。

韓国人観光客だったのですが目的地は仏生山温泉ではなく「中野うどん学校に行きたい。」と尋ねられたのです。中野うどん学校は香川でも著名な観光スポットでことでんの沿線にあるのですが、最寄り駅の円座からは歩くと20分以上かかります。

お客様は、タクシーを使って行くことも選択肢に入れていました。さすがに迂闊な対応はできなかったので、駅長に聞きながらタクシーの運賃と比較して案内を行い、最終的に「電車で円座まで向かって、そこから歩きます。」ということになりました。

実習中は、1つの選択肢のみを提示するのではなく、複数の案を提示しながら対応しなければならないことが数多くありました。これは、鉄道職員だけでなく、様々な業務で必要なことだと思います。私自身、実務面で英語の重要性を体感する貴重な機会でした。