そこで、嫁さんや子供とも家で話し合った。その結果、先生と嫁さんは意思表示カードに臓器提供の意思表示をすることになったんだ。子供はまだ考えているけどね。でも先生ら夫婦で、お互いにもしものことがあったらお互いの望みをちゃんと叶えてあげよう、って誓ったんだよ」

「でも、やっぱり心臓が動いているのに死んでいるなんて思えんよ……」

「確かにそうじゃな。人の生き死にに関わることなので、本当に難しいことだとは思う。もちろん、先生みたいに臓器提供を希望してもいいし、臓器提供を希望しない、という意思表示をする人もいるんだ。臓器提供を希望しないとしても、それは決して咎められることではないんだよ。

大事なのは、日本でもこういった臓器移植という医療を必要としている患者さんがたくさんいるということと、臓器提供という選択をする人もいる、という事実を日頃から少し考えておくことだと思う。みんな自身やみんなの家族が、いつ臓器移植を必要とする状態になるか分からんし、反対に、いつ脳死状態という非常に深刻な状態になるかもしれないしな」

「……」

「とっても怖いことかもしれんけど、先生の妹の腎移植と先生の腎臓提供ということをきっかけにして、この夏休み中に家族で脳死と臓器移植について話し合ってきてほしい」

「ええっ! いきなり宿題かよ!」

「今回、必ずしも臓器提供意思表示カードに記入しなさいという訳でもないし、臓器提供を希望しなさい、という訳ではない。反対に臓器提供を希望しない、という考えを持っても間違いではない。あくまでも家族で話し合いを持ってもらって、感想文形式にして原稿用紙1枚くらいでいいので、夏休み明けに提出して下さい」

そう言って、先生は臓器移植についての資料を配って、僕たちは夏休みに突入した。