パナソニックの企業理念
【綱領(経営理念)】
産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す(私たちの使命は、生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与すること)
【遵奉すべき精神(行動理念)】
一 産業報国の精神
産業報国は当社綱領に示す処にして我等産業人たるものは本精神を第一義とせざるべからず
一 公明正大の精神
公明正大は人間処世の大本(たいほん)にして如何に学識才能を有するも此の精神なきものは以て範とするに足らず
一 和親一致の精神
和親一致は既に当社信条に掲ぐる処個々に如何なる優秀の人材を聚(あつ)むるも此の精神に欠くるあらば所謂(いわゆる)烏合(うごう)の衆にして何等(なんら)の力なし
一 力闘向上の精神
我等使命の達成には徹底的力闘こそ唯一の要諦にして真の平和も向上も此の精神なくては贏(か)ち得られざるべし
一 礼節謙譲の精神
人にして礼節を紊(みだ)り謙譲の心なくんば社会の秩序は整わざるべし正しき礼儀と謙譲の徳の存する処社会を情操的に美化せしめ以て潤いある人生を現出し得るものなり
一 順応同化の精神
進歩発達は自然の摂理に順応同化するにあらざれば得難し社会の大勢に即せず人為に偏(へん)する如きにては決して成功は望み得ざるべし
一 感謝報恩の精神
感謝報恩の念は吾人(ごじん)に無限の悦びと活力を与うるものにして此の念深き処如何なる艱難(かんなん)をも克服するを得真の幸福を招来する根源となるものなり
「社会生活の改善と向上」と「世界文化の進展に寄与する」とは創業者松下幸之助の企業精神、経営哲学が良く表れており、パナソニックはこの理念のもと、世界の家電メーカーとして飛躍していった。
松下幸之助が経営理念を模索し始めるのは、社員が100人を超えたころからであったという。比較的順調な経営を続けていたが、このころから経営上の様々な悩みに直面し始めた。
たとえば、同業他社との競争において、自分が勝利するということは、同業者の経営を圧迫することになり、それは果たして許されるのかという道義的な悩みであるとか、代理店との結びつきが強固になって、代理店の中には自社の経営を松下電器に依存してくる会社が出てきたが、得意先の経営責任まで負わなければならないものなのかという疑問である。
さらには決算において税務署との見解の相違があり、課税をいかに解釈するか葛藤したという経緯もあったという。こうした葛藤を経て幸之助は、「松下電器は人様の預り物である。忠実に経営し、その責任を果たさなければならない」という覚悟が定まったという。
幸之助の経営理念が様々な形で定まるのは昭和4年(1929年)からである。
この年、経営の基本方針というべき「綱領」と仕事の心構えを示す「信条」が確立され、昭和7年(1932年)には松下電器の根本理念である、産業人の使命を闡明(せんめい)する。昭和8年(1933年)には、仕事の心構えをさらに具体的に説いた「松下電器の遵奉すべき精神」、昭和10年(1935年)には、社風づくりのための一環として制定した「松下電器基本内規」などを確立していく。