後遺症が不安でもリハビリをすれば
先生は淡々と診察しているが、私は、思うようにならない指先に将来の不安を感じ、会社に戻ることが出来るのかと考えていると、
「大丈夫、リハビリして頑張れば何とかなります。頑張るしかない」
大きな声のドクターは、私の不安を取り除くように更に大きな声で言った。
「リハビリを頑張るしかない」
「頑張りましょうね」
看護師のかわいい声で、言い聞かされて私は病室へ運ばれた。
ベッドに移され、横になると、看護師が、
「ベッドに戻った時からリハビリですよ。頑張りましょう」
とリハビリを怠らないように私に促した。
頑張るという言葉を何回聞いたであろうか。頑張れば必ず治るとのドクターの言葉を信じ、時間があれば、ベッドの横に立ち、ベッドの捕まりポールを握り何度もゆっくり屈伸運動をし、時には杖を使って廊下でイッチニ、イッチニ、とゆっくりと歩行訓練をした。
ベッドでは天井を見ながら、ドクターの怖い顔を思い浮かべて、口を大きく開け、声を発せず「あ・い・う・え・お……」口を尖らせリハビリを絶えず行った。日に日に通常の状態に戻っていくことに勇気づけられる。初のリハビリルームでの平行棒を両手で握っての歩行訓練で思うように歩けなかった状態を思い出すとどんどん良くなっていく。
ドクターと看護師の声に勇気付けられてリハビリに向かう気持ちが前向きになり、それから、何回かのリハビリで全く通常な歩行も出来るようになり、通常の会話も可能になった。ただ、平衡感覚が悪く、目を閉じて両の手の指先を合わそうとすると、2、3センチはずれてしまう。
歩くと直進できず円を描いてしまう。自分でも可笑しい。目を閉じて普通に歩くと円を描き、歩き始めた場所に戻ってしまう。目さえ閉じなければ真っ直ぐ歩くことは出来るし、問題はない。目を閉じて仕事はしないから。
リハビリに明け暮れ、時間があれば、何かしらのリハビリを行っていた。目を開けていても目が回ることはなく吐き気もない。リハビリ以外はベッドに横になって天井を見上げ、今までのこと、将来のこと、いろいろと多くのことを考えた。
今回のようにまとまった自分の時間を持つことがなかった。会社のこと、家族のことを考えた。会社は、大丈夫だろうか、家族は、今、何を考えているだろうか。そんなことを考えていると、会社の同期の一人がお見舞いに来た。