駅伝部
4月の世広台地は、まだ肌寒い日が多く、山や日陰には残雪が見られる。それでも、小川のせせらぎが少しずつやわらかさをかもし出してきており、あぜ道にはつくしが顔をのぞかせている。
今日は、世広中学校の入学式だ。同級生が9人だけだった小学校生活から84人に増える中学校生活になる由大にとって、たくさんの出会いが待ち遠しい。そして新たな中学校生活の中で最も楽しみにしているのがクラブ活動だ。
「おはよう」
由大と泉は一緒に中学校へ通うように前から約束していた。
「部活は何部に入る?」
「僕は駅伝部。ずっと前から決めていたんだ。泉は?」
「ヨッシーは得意なものがあるからいいよね。私は迷っているの。あんまり運動が得意じゃないから、マネージャーもいいかなって思っているの」
「駅伝部にもマネージャーがいるみたいだよ。一緒に見学に行ってみる? 正も誘ってみようと思っているんだよ」
黒木正も小学校の同級生で、マラソン大会では必ず由大と一番を争う仲間だ。
1年B組の担任は原先生だ。
「入学式は寒くなかったか? 体育館はエアコンが効いていないので、どうしても寒いよな。先生は寒がりだから、毎年の卒業式と入学式が寒くてかなわんよ」
「先生! 僕も早く家に帰ってこたつに入りたいでーす」
クラスの誰かが言った。
「ほんまじゃのう。今日はこのホームルームが最後じゃけえ、これで帰れるんじゃが、最後に一つだけみんなでやっておくことがある。このクラスの“行動目標”を決めとこうと思うんじゃ」
“行動目標”と聞いて、由大は少しだけ大人に近づいた気がした。