「私ね、こんな仕事しているから男性と飲みに出掛けたり、タクシーまで送っているときに腕を組んだりとかはしているけどね、よそ様の男性をとるとか、お客さんと男女の仲になるみたいなことは神に誓ってしてこなかったの」
「はい」
「それなのにさ、他のお店の人に言われたの。あんた色仕掛けで商売しているって」
色仕掛けというより力ずくという方が正しい気がするけど、そんなこと言ったら殺される。
「それはやっかみですよ。月子さんのお店が流行っていてこの間七周年だったからじゃないですか」
大将も一緒に慰める。
「そうですよ。俊平さんの言う通りですよ。向かいの店で僕はよく見ていますから月子さんが清廉潔白なのは僕が一番よくわかります」
清廉潔白は言いすぎかもしれないが、竹を割ったような性格の月子さんがそんなことをするわけがない。俺も経営者だ。多少の人を見る目はある。
「俊平さん。つまみはどうされます?」
「そうだな~。この後はぬる燗にしたいんだけど、だいぶ暑さもおさまってきたことだし揚げ物とか、少しこってりした料理が食べたいな」
「天ぷらはいかがですか」
「ほう、いいね。でも他にもいろいろ食べたいからな~」
「鱚の天ぷらなら白身ですしお腹にもたれませんよ」
「いいね」
と言うと同時に月子さんの号泣が聞こえてきた。
「うわ~ん」
「どうしたんですか? あ、大将、その鱚の天ぷらはお願いします」
「へい。鱚天一丁」
「うわ~ん」
「月子さん、どうしたんですか」
これはただごとではないぞ。
「っひっく、っひっく……あのね、私がお店でお客さんとキスしていたって言われたの」
あちゃ~! 鱚の天ぷら。キスというNGワードを言ってしまったのか……。