新じゃが・新たま
いい入学式だったな。いつものカウンター席で夕陽ビールを一口飲んだ。そして息子のランドセル姿の写真を見ようとスマートフォンを取り出した。
俺は株式会社スズキフラワー代表取締役鈴木俊平、四十四歳。三十歳で独立起業して今では本店に加えて系列店を三店舗構える経営者だ。そんな俺の唯一の趣味で息抜きなのが月曜日の一人呑み。
この日は月曜だったが、午前中は会社を休んで一人息子である健太の入学式に出席し、そのあとで会社に顔をだした。そのまま家に帰って入学祝いをしてもよかったのだが、今週末にお互いの実家からじいじとばあばがお祝いに来るという。今日は健太も疲れたみたいだからお祝いはそのときでいいだろう。
「お通しです」
大将が置いた皿には小さなお猪口に盛られたモズク酢に、菜の花の辛子和え。それとポテトサラダ。
それにしても……自分が子どもの頃は父親が子どもの入学式に行くなんて、PTAの役員かそうでなければ地元の名士ぐらい。もし来ると言ったら子ども心に気恥ずかしいものを覚えただろう。
だが時代は変わったようだ。今日の入学式にも半分ほどが夫婦で出席していた。妻の汐里も俺が会社を休んで出席するのは当たり前のように思っていたぐらいだ。
汐里は三つ年下だ。一人息子を溺愛していて、幼稚園バスで送るときには毎回今生の別れのように抱き合っていた。その息子がこれから一人で登校するんだもんな。俺も心配といえば心配だ。
「俊平さん。何を見ているんですか?」
バイトの美紀が新しいビールを運んできた。
「え? これ? 俺の息子。今日入学式でさ」
「わ~! 俊平さんに似てイケメン君ですね」
「なになに。僕にも見せてくださいよ」
大将もスマホをのぞき込んできた。なんだかこれじゃあ俺って親バカ丸出し状態だな。
「今日は入学式だったんですか?」
「そうなんだよ。遅くにできた一人息子だからなんだかかわいくてさ」
「子どもはかわいいですよ。うちも二人いるんですけど寝顔を見るだけで疲れが吹きとびます」
「え? 大将、若く見えるけど結婚してお子さんもいたんだ」
「はい。今、三十三歳です。二十五で、できちゃった結婚だったんで小学二年の娘と下は男で五歳なんですよ」
「そうかぁ。なんだ、大将の方が父親では先輩だね。いろいろ教えてね」
「そんな、そんな。こちらこそです」
「大ちゃん。こんばんは」