「ねえ、あなたは貸し出されたら先ず何をするわけ?」
「そうだなあ。話をするかな」
「どんな話?」
「趣味とか特技とか」
「ねえ。今までに何人の女の彼氏になったわけ?」
「う~ん。数えたことないけど五百人ぐらいかな」
「ねえ、それがあなたの仕事なの?」
「そうだよ。生まれたときからそういう教育を受けてるんだ。僕たちの存在は貴重なんだよ。男と女の数が同じだったころの歴史とかさ。おもしろいよ。今君たち日本国民が習うことってたかが二百年前のことなわけでしょう? 僕たちは、男が社会を動かしていた時代のことも勉強するんだよ」
「それって国家機密なんじゃない? 今、どの文献を探しても、男女同じ数の頃の文献なんて見つからないよ。そんな頃が本当にあったの? 男も仕事をしていたの? 政治家や医者や先生、パイロットの中にも男がいたの?」
「そうだよ。男のほうが活躍してたぐらいだよ」
「私は、男ってただ精子の為だけに存在するんだと思ってた」
「今は確かにそうかもね。女の人たちだけでこの世の中回るんだってわかったのが二百年前。男がいるころよりだんぜん平和になっちゃったんだからなあ。男が半分いるころは、世界中で何かしら争いごとが起きてたんだ。戦争とかさ。人殺しをするのも殆ど男なんだ。最近日本であった殺人っていつだか思い出せないでしょう? そのぐらい女は平和で賢いってことだよ」
「私の頭の中には常に女とか男なんてないわけよ。男が周囲に存在しないんだから」
「僕の存在を知った女は九十九パーセントが女だけの世界は間違ってると言い出すよ。君も三日目には絶対そう言ってる」
「私は、男は要らないと思う。今まで二百年間こうして女だけでやってきたじゃない?」
「もし本当に完全に男がいなくなり精子がなくなったらどうなる? 人類は滅亡するよね?」
「大丈夫よ。精子バンクがあるもの」
「もしもそのバンクの精子が全部なくなっちゃったり消えちゃったらどうなる?」