新たな国家設立
そこへ三俣真理総理大臣が遅れてやって来て、皆を見回し、こう告げた。
「もう、私どもには時間がありません。見切り発車と言われても、種男システムを実行するしかこの国には選択肢がないんです。私には、息子がおります。この息子を含め、現在生存する二十代から三十代の男性の知能検査、体力検査、家族の健康状態の検査を直ちに始めましょう。
かわいそうだけれど、この検査で優秀とみなされた男子は、種男として、国に彼らの精子を捧げていただきましょう。但し、女性も、知能、体力共に優秀、家族代々健康、容姿端麗の二十代を実験的に全国から二百人選ぶことに致しましょう。
せっかく全国から、こうして皆さんには集まっていただきましたが、私のただひとつの皆さんへの質問は、これで当分種の保存は保たれるかということです。もう、誰の意見がどうのこうのとあげつらっている暇は私たちにはないんです。どうですか、できますか、できませんか」
「もう、種男システムしか残っていませんよ」
そう湯浅が言うと、他の六人の有識者たちも大きく頷いた。矛盾があるだのないだの言っている余地はもうなかったのだ。
国としておおっぴらに女性国家説立案などと説明しなくても、もう、精子バンクの機能を充実させ、遺伝子操作をしていかなければ日本という国に人っ子一人いなくなってしまうのだ。
見切り発車のまま始まった種男システムは、女たちに知られることなく、通常の女性からは女しか生まれないように操作されていた。特別な女を探し当てた時のみ、男が"偶然"生まれるようになっていた。
種男百五番は、一気に種男システムができあがった背景を話し終えると、立ち上がり、
「ちょっと失礼。お手洗いに行ってくる」
と言った。種男百五番は、洗面台の後ろに存在する四次元の世界に入り込み、美紀と話始めた時間にワープし、美紀の母が家を出て行ったときまで遡りすべての美紀と種男百五番の動作を消去し、また美紀がコーヒーを淹れた時に戻ってきた。
美紀は、コーヒーを差し出しながら、種男百五番に、
「これで種男システムがどうやってできたかはわかったけれど、この先の計画はどうなっているわけ?」
と訊いた。種男百五番は、座っていた椅子から転げ落ちた。なんという失態だ。美紀の記憶は消去されていないではないか。何が起こったのだろう。美紀は、冷静且つはっきりとした口調で、
「お手洗いに行って何かしようとしたでしょう? わかるのよ。女という生き物の勉強が足りないんじゃない? 私たちにはね、男より鋭い直感というものがあるのよ」
「君の記憶を消してきたはずなんだ。さっき、君のお母さんがこの家を出て行ったときまで時間を戻して、全部消去してきたんだよ」